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静岡県三島市に本社を置く和洋惣菜・弁当メーカーの石田フード㈱では、㈱ローゼックの食品製造業向け生産販売統合システム「CraftLine」を導入し、受注、製造指示、出荷などの業務の大幅な効率化・迅速化を実現した。日配品を扱う食品メーカーでは、こうした統合システムの活用により、どのようなメリットが得られたのだろうか。地産地消をコンセプトに
石田フードは1974年に創業した惣菜・弁当メーカー。商品は主に静岡県内の量販店に出荷されている。 「当社は地産地消をコンセプトに、箱根西麓の農家と提携し、地域特産作物を中心に地元ブランドを生かした商品を開発・販売しています」と話すのは石田世静取締役会長。生産は三島工場に加え、2015年に新設した長泉工場の両拠点で行っている。三島工場では和洋惣菜の出荷が中心だったが、長泉工場の新設により弁当やおにぎりなどの米飯事業にも乗り出した。主な売れ筋商品は「牛カルビ弁当」「赤飯いなり」「三島コロッケ」などだという。
早くからHACCP手法の導入に積極的で、06年に開設した三島工場は(一社)日本惣菜協会のHACCP高度化支援計画の認定を受けて建設。長泉工場も同協会の「JmHACCP(惣菜製造管理認定)」の年内認定を目指し、現在、環境整備が進められている。
WEB方式が主流になるとにらむ
同社では長年、受注と請求の各業務について、カスタマイズ仕様のオフィスコンピューター(オフコン)を使用していた。使い慣れたシステムだったがやがて老朽化し、いよいよ保守更新が困難になってきたことから、13年秋ごろにシステムのリプレースを決めた。
選定に当たっては複数社から提案を得た。その方向性は二つに分かれた。一つはサーバーコンピューターを各事業所に置き、それぞれカスタマイズで作り込んでいくシステム。もう一つはサーバーコンピューターを1台だけ置き、そこにパッケージ型の業務ソフトを組み込み、WEBベースで端末からアクセスするシステム。
「前者は事業所ごとにサーバーコンピューターが必要になるのですから、そのことだけでもコストがかさむのは明白でした。メンテナンスも面倒になります。一方、WEB方式は統合型のシステムを組む上では明らかに効率も良いし、今後はこの方式が主流になるだろうとにらんだのです」(石田会長)
また後者の提案は、受注から製造指示、請求まで一気通貫で行える統合型システムを、中小企業でも組みやすいという点も大きな魅力だったという。それを実現するのは、あらかじめパッケージ化された業務ソフトを組み込むことによるもの。ゼロベースから作り込む業務システムに比べて導入スピードが圧倒的に速く、カスタマイズによるコストの加算も抑えられる。ある程度、業務をシステムのフォーマットに統一する必要があるが、むしろそれを業務改善につなげればよい。
「ばらばらだったフォーマットを一緒にした方が、誰でも同じ感覚で業務を把握できるようになり、ミスの抑制にもつながると思います」(同)
クラフトラインの採用
こうした観点から石田フードが選んだのは、ローゼック社のクラフトラインだった。生産管理や販売管理、在庫管理、受発注管理、トレーサビリティ、原価計算などの各種機能が組み込まれた食品製造業向けの生産販売統合システムだ。これまでの食品メーカーでのシステム構築で培ったさまざまなノウハウが1パッケージに詰め込まれており、大掛かりなカスタマイズをしなくても稼働させることができる。さらに、事業規模や業態、工場の管理レベルに合わせて必要な機能から段階的に拡張できるよう設計されていることも、中小企業から多くの支持が寄せられる理由の一つとなっている。
特に「業務の見える化」に向けた機能が強化されており、例えば製造原価と標準原価の乖離や製造・原料入荷の遅延、停滞在庫などの発生をリアルタイムに警告してくれるホーム画面は「誰でも重要な気付きが得られて安心」と好評だ。
「従来は受注情報を基に一つ一つエクセルに入力して各業務をこなしていましたが、統合システムのクラフトラインならマスタに登録をした商品はこうした入力作業がほとんど不要になり、自動で必要な帳票が出力されます。業務が効率化されるだけでなく、入力間違いによるリスクも減らせるのは大きな魅力です」(同)
段階的なシステム構築
システム構築は14年10月から17年6月にかけて進められた。途中、長泉工場の新設を挟みながらの作業だったため中断も余儀なくされたが、先行の三島工場ではオフコン時代にシステム化していた受注から出荷、売り上げの各管理機能だけを最初に組んで運用を開始したことで、混乱はなかった。
システム構成の全容は図の通り。主に三つの段階に分けてシステムが構築されている。同一のシステム上で受注指示ファイルの取り込みから各種帳票出力、出荷登録、売上日計表の作成までが行えるようになっている。
また、製造指示書の出力までを行えるようにするため、15年2月にはレシピマスタの整備に着手、長泉工場では試験運用を経て16年3月に本運用を開始した。さらに17年7月には三島工場で原料や資材などの発注を管理するためのシステムをプラスオンしている。
なお、原料点数が非常に多い三島工場でのレシピマスタの整備は現在も続いており、製造指示書の出力機能の完成は18年内を見込んでいる。
属人化の解消と製造指示の迅速化
新システムになってすぐに感じたメリットは属人化の解消だったという。従来も数字を入れれば帳票の出力ができるようにしてはいたのだが、それでもイレギュラーな状況にぶつかると対応が困難になってしまっていた。
「どうしても経験に基づいて判断しなくてはならない状況があり、その人がいないと業務を回せなくなってしまいます。現在は登録マスタの情報と受注指示ファイルの情報から自動で各帳票が出力されるので、こうした課題も大きく解消できたと思います」(同)
もう一つの大きなメリットは、すでに長泉工場ではその機能が稼働しているが、製造指示書が極めて迅速に出せるようになったことだ。いわゆる日配品を出荷する石田フードの出荷体制の特徴としては、「受注生産」「短納期」「複雑なレシピ」が挙げられる。従って日々、表のような課題と常に向き合うことになる。
同社では通常、翌日の受注が確定するのが前日の16時だという。従来はその段階でようやく製造計画数を算出して製造指示書などの必要な帳票を作成していた。夕方からしか作業ができなければ業務は非常にタイトになり、属人化も避けられなくなるため、リスクが大きくなることは明白だ。
クラフトラインが稼働してからは、①受注の電子データを取り込む(=受注登録)②計画画面でMRPボタンを押す(=所要量計算)③製造指示書画面で印刷ボタンを押す(=製造指示書の作成)――の3ステップだけで翌日の製造指示が出せるようになった。この作業に要する時間はほんの数分である。新商品についてはレシピマスタを登録する必要があるが、その後は基本的に前述の3ステップだけでよい。表示ラベルの貼付用台紙や出荷関連帳票の印刷も簡単なボタン操作で完了する。
「日々、受注状況が激しく変動する企業にとっては、特にこうしたシステムのメリットが感じられるといえます」(同)
将来的にはPLでも活用
新システムの活用では、次の展開も視野に入れている。その一つが、PL(損益計算書)である。
「現在、勤怠管理を別のシステムで行っているので、将来的にはそれとクラフトラインを組み合わせて『この工程では誰が何時間要したか』などを割り出し、事業部ごとの損益計算まで出していければと考えています」(同)
原料費、資材費などだけでなく、人件費を含めて見える化することで、より精度の高い現場改善につなげていくというわけだ。
長泉工場の新規稼働もあり、わずかこの数年で出荷額が4~5倍にも伸び続けている同社。ボリュームアップを続ける今だからこそ、業務の質に対するレベルアップにも意識が向けられるのだろう。
ローゼック 早川雅人のコメント
拡張性が高く、長く使えるシステムの構築
生産販売統合システムは、惣菜製造のような原料の点数が多く階層の深い食品ほど、メリットを引き出せるシステムだといえます。特に大きいのが属人化の解消です。特定の人にしかできなかった業務をシステムで共有化・効率化できるからです。
2013年当時ではまだ、WEBベース、すなわちクラウド型のシステムを導入するのは勇気の要る選択だったはずですが、石田フードさまには先見の明があったといえます。工場の新設や業務範囲の拡大など、クラウド型のシステムはこうした会社の変化に合わせて柔軟に対応できるのが最大のメリットです。このように、時代の流れと自社の将来像を見越した決断が、拡張性が高く、長く使えるシステムの構築につながるのではないでしょうか。