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カット野菜やカットフルーツ、野菜・フルーツのパウダーなどを製造・販売する九国ベジフル㈱では、2018年9月の創業に合わせて㈱ローゼックの食品製造業向け生産販売統合システム「CraftLine」を導入した。これにより販売・生産管理の業務が可視化され、加えて「ミスをしにくい」仕組みが構築された。多品種小ロット生産に対応
九国ベジフルは、品質の優れた農産物が得られる熊本県の特性を生かした商品を出荷しようと、静岡県浜松市に本社を置く㈱浜松ベジタブルが設立した子会社だ。
「阿蘇山の黒墨土で育った熊本の素晴らしい野菜・フルーツを活用し、人の魂がこもった商品をお届けしたいと考え、九国ベジフルを設立しました」と話すのは、浜松ベジタブルの常務取締役と九国ベジフルの専務取締役を兼務する池田克信氏。
現在はカット野菜・フルーツを、主に熊本・福岡県内の惣菜・弁当メーカーやスーパーマーケット、給食センターなどへ、フルーツのパウダーを製麺や製パン、菓子メーカー、製薬会社などに向けて出荷している。 特定の野菜のみの加工を行うカット野菜・フルーツメーカーが多くを占める中、同社は多種多様な顧客ニーズに合わせた商品バリエーションを用意しており、小ロットでの生産にも対応できることが強みだ。
細かい要求に応えるため、さまざまな加工機械が設置されている野菜・フルーツのカット工程だが、同社では「手切り」にもこだわる。熟練を積んだスタッフが、丁寧かつ驚くほどのスピードで作業を進める。人の手を使うからこそ実現できる美しい仕上がりは、納入先からも高い評価が得られている。
一方、野菜・フルーツのパウダーは、およそ100℃の高温下で乾燥と粉砕を同時に行い、生の野菜類を瞬時に微粉末化する特許製法「セントリドライミル(CDM)製法」で作られる。野菜やフルーツを短時間で乾燥・粉砕することで原料への負担が極力抑えられ、これにより素材本来の栄養成分と色彩、風味が残せる。
九国ベジフルの執行役員で生産を担当する野田富広氏は、「生の原料から効率よく水分を抜くには表面積を増やすことが非常に重要で、ここでも弊社のカット技術が生かされています。パウダー製造も、カット野菜・フルーツ製造の延長線上にあるというわけです」と強調する。
親会社でのシステムの課題を根本的に改善したい
親会社の浜松ベジタブルには九国ベジフルの設立に当たり、業務管理システムでの従来課題を根本的に改善したいという強い思いがあった。
浜松ベジタブルでは1990年代に自社で開発した受発注と加工指示の業務管理システムをずっと使い続けていたが、統合的な仕組みにはなっていなかったため、情報を関係部署間で共有できず、一つの商品の業務指示について別々の担当者が何度も手打ちでパソコンに入力し直すという状況だった。
加工アイテムが4000種類以上に及ぶ同社では、こうした入力作業だけで約15人ものスタッフを要したという。
また、FAXなど紙ベースでのやりとりも相変わらず多く、業務効率を改善するためには、こうした慣習も見直す必要があった。
「システムはあっても、業務は基本的に『アナログ』。手打ちでの入力作業が多ければ、ミスをする可能性が高くなりますし、スタッフの負担も増すばかりです。繁忙期には残業が週30時間以上に及ぶことも多くありました」(池田専務)
そこで、業務管理システムの要件を①できるだけ人手を要さないこと②業務情報を一元管理できること――に定め、選定を進めた。
仕組みやメリットが分かりやすいシステム
システムの選定は、九国ベジフルの設立に向けた準備が進む2017年6月ごろに開始。ITに詳しいスタッフを採用しながら、地元のシステム会社や全国各地の展示会などに足を運び、情報を収集した。
ローゼックの食品製造業向け生産販売統合システム「クラフトライン」は、展示会を通じて知ることになった。
「ITリテラシーがそれほどあるわけではない私どもでも、その仕組みやメリットが非常に分かりやすいという印象がありました。また、実際に導入されているカット野菜の会社も見学させていただき、システムによる業務改善のイメージがしっかりとつかめたのがよかったですね」(同)
加えて運用開始後のフォローアップ体制も手厚く、「安心できる」と感じたことも採用の決め手となった。
バージョンアップが無償で提供され進化を共有
採用が決まったクラフトラインは、生産管理や販売管理、在庫管理、受発注管理、トレーサビリティシステム、原価計算など、食品製造業に必要な各種機能を備えたパッケージシステム。会計、人事給与を除いた全ての業務を横断的・統合的に管理できるシステムではあるが、事業規模や業態、工場の管理レベルに合わせて段階的に機能を拡張できるよう設計されており、従って比較的IT化が遅れている中小規模の食品工場でも広く導入が進んでいる。
食品製造の基本情報となるレシピや金額、オーダーなどを、いわば一本の「横串」の状態(=マスターデータ)にして各業務が行えるようになるため、間違えてはならないこうした基本情報を何度も入力する必要がなくなる。さらに、こうした仕組みによりリアルタイム原価計算(直接費)やトレーサビリティも実現する。
導入企業が増えるたびにユーザーの要求に応じて独自に開発された機能が追加され、ソフトがバージョンアップしていくことも大きな特長で、保守契約を結んでいるユーザーには無償で新機能が提供される。池田専務自身も、こうした特長には特に大きな関心を寄せたという。
「経験に基づいて常に進化をし続けるシステムを使用する中で、私たちの業務も継続して改善していけるという期待が持てます」
入力間違いのリスクが少ない
クラフトラインは必要な機能があらかじめインストールされたパッケージソフトのため、創業準備と並行してのシステム構築も進めやすかった。マスターデータの作成作業も、工場開設間近の18年7月ごろに開始した。
システムのフローを図に示した。販売管理と生産管理の2軸構成になっているのが分かる。各業務はマスターデータと結ばれており、登録系画面ではこのマスターデータから読み込まれた情報が表示されるため、実際には個別の業務内容に応じて確認・追加入力などを行うだけで済む。同様にマスターデータと個別入力情報が反映された納品書や送付状、請求書、製造指示書、発注書が簡単な操作だけで出力される。
クラフトラインのオペレーションを行う総経部の吉良有紀子氏は、登録する入力項目が削減できることで、業務の効率化だけでなく安心感も得られたと強調する。
「例えば、納品先ごとに商品情報を呼び出せば、リストには単価まで細かい仕様がきちんと表示されるので、入力間違いのリスクが少なく、必要最小限の作業で登録作業が進められます。情報の打ち直しや編集によるミスを防ぐことができる点に、特に大きなメリットを感じています」
また登録画面が分かりやすく、通常は指定の場所に必要項目を入力するだけで済むので、「新人教育もしやすくなりました」(吉良氏)という。
増産に向けての基盤整備となる
現在、九国ベジフルでは3人の担当スタッフがクラフトラインのオペレーションを行っている。工場の生産能力にまだ余力を残す同社ではあるが、浜松ベジタブルでの15人体制と比べれば、明らかに省力化を実現している。
「そして一元管理は確実にしやすくなりました。業務の一連の流れが可視化できるようになったことで、別々の業務であってもシステム上ではどこからでもチェックし合え、物理的な距離を感じさせなくなったという印象があります。受発注業務の正確性も増し、今後の増産に向けての基盤整備ができたといえます」(池田専務)
日々のデータが継続的に蓄積され、一元管理化されることによる前向きな業務改革ビジョンも得られた。例えば需要予測もその一つ。これまでは仕入れ担当者が増減する受注にその都度、膨大な知識や経験則で対処してきたが、蓄積されたビッグデータによるエビデンスの下であらかじめ受注量を見通すことができるようになり、こうした情報がシステムにより全社で共有されるようになれば、属人化を回避しながら正確かつ迅速に人員や機械の配置の最適化が図れるようになる。
さらに、クラフトラインを通じてトレーサビリティの取り組みも一歩進めていきたいと野田執行役員は語る。
「生産管理に必要なデータをロットにひも付けすることで、効率的にトレーサビリティが取れるようになるはずです。工程の成績が取得でき、比較が可能になれば、標準原価に対して高かったのか低かったのかの検証もできるようになります」
親会社での業務改革にも展開
九国ベジフルでのシステム導入の取り組みは、浜松ベジタブルでの業務改革へ展開していく方向性で現在、準備が進められている。子会社だけでなく、親会社の将来の改革に向けても大きな布石となった。
これまでは受託業務としてBtoBでの取引が中心だった同社だが、今後は付加価値の高いオリジナル商品の開発やリアル店舗の開設などを通じて、BtoCへの展開も目指していく考えだ。
「『食に愛を』のメッセージをより広く発信していきたいですね。そのための準備は整いました。これからが本当のスタートです」(池田専務)
ローゼック 大津元希のコメント
システムは共同作業相互理解の下で作り上げていく
例えばカット野菜・カットフルーツについては、同じ原料を使っていても、カットや処理の仕方で仕掛品の状態や最終商品はさまざまに変化していきます。生産管理システムでは、このような状況も含めて受注から商品ラベルの発行まで情報を結び付けていかなくてはならないので、とにかく業務の実態を正しく把握することに力を注ぎました。分からないことは何度も現場の方々にお尋ねして理解を深めました。システムの構築ではこうしたご協力関係が不可欠で、ユーザーさまとエンジニアとの共同作業、相互理解の下で作り上げていくことが重要だと考えます。