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穀物加工を行う熊本県の西田精麦㈱では2018年8月、㈱ローゼックの食品製造業向け生産販売統合システム「CraftLine」を導入、業務の効率化や見える化などを実現し、新事業である食用麦事業の拡大に向けた大きなステップアップとなった。〈2020年1月に取材〉食用麦事業でBtoC市場へ進出
1929年に創業し、大麦や米、トウモロコシなど、一貫して穀物の加工で歩みを進めてきた西田精麦。同社は現在、焼酎やみそなどの醸造用原料を製造・販売する「精麦事業」(以下、醸造部門)、畜産農家向けの穀物飼料を製造・販売する「飼料事業」(以下、飼料部門)、そして大麦を用いた食品の製造・販売を行う「食用麦事業」(以下、食品部門)を主な柱に事業を展開している。
醸造用原料は九州地区の焼酎メーカーやみそメーカーなどに調達されており、焼酎・みそ用麦原料のシェアは業界2位を誇る。また、8500tもの保有能力があるA飼料(牛専用飼料)専門工場を持ち、良質な飼料の安定供給を通じて九州地区の乳用牛・食肉牛農家を支えている。
長らく業務用向け商品の製造・販売が中心だったが、2014年に食用麦事業を立ち上げたことで、本格的にBtoC市場への進出を果たした。主力商品は食物繊維が米の20倍も含まれる「胚芽押麦」や九州産大麦を100%用いた「ビタバァレー」、熊本県内の学校給食でも長年採用され、プチプチとした食感が人気の「毎日健康ぷちまる君」、大麦から黒糖蜜、米油まで全て国産原料を使用した「九州大麦グラノーラ」、スーパー大麦を食べやすいフレークにして素焼きした「そのままたべられるバーリーマックスフレーク」などだ。
「19年9月には食用麦事業専用の新工場が完成し、生産能力も大きく向上しました。オリジナル商品を積極的に開発し、弊社の主力ブランドに育てていきたいと考えています」と話すのは、西田啓吾社長。その新工場では現在、FSSC22000の認証取得に向けて準備が進められている。
当たり前の連携ができない
同社では従来、醸造部門と飼料部門で自社開発した別々の生産・在庫管理システム、販売管理システム(受注処理・売り上げ処理・納品書出力・請求書出力など)を使用していた。だが、システムを開発した担当者が退職してからは、不具合があっても誰も修正できず、業務の変化に追随できる設計にもなっていなかったため、大きな不便を感じていた。
また、互いのシステム間での情報連携ができる仕組みになっておらず、出来高管理や出荷管理などの業務で入力の二度手間を余儀なくされていた。
「例えば、製造した物が在庫情報に上がってくるなど、そうした当たり前の連携ができないわけです。そのため入力を何度も行わなければならず、こうした状況下では作業自体がミスの温床となってしまいます。このように、業務管理システムに関する課題は山積していました」(同)
さらに、新たに食品部門が立ち上がったことで、システムリプレースの必要性は決定的になった。
「食品部門はこれまでの事業とは受注から製造、納品までの流れが大きく変わります。従来のような、情報が分断してしまうシステムでは管理が難しくなります。そこで新事業の立ち上げを機に順次新しいシステムに入れ替え、最終的には全ての部門での統合を目指すことになりました」(同)
魅力はクラウドベースでの運用
リプレースに当たっては17年6月、ITシステム推進室の津田晃一氏をリーダーに6人のプロジェクトチームがかまれ、まずは基幹システムの選定作業が進められた。数社による選定を経て最終的に採用が決まったのが、ある展示会で知ることになったローゼックのクラフトラインだった。
「最大の魅力はクラウドベースで運用できることでした。最近は弊社でもオンラインのデータベースやチャットツールなどを活用し始めていたのですが、外から社内の情報を見ることができなかったので不便を感じていました。クラウドベースのクラフトラインなら、外出先でもタブレットPCやスマートフォンなどを使ってウェブブラウザーで業務の把握や管理ができますし、テレワークも可能になります」(津田氏)
またクラウドベースなら、システムで何らかのトラブルが起きても、1台のサーバーに対してのみ修正を行えば済むため、保守面でも大きなメリットが得られることを期待したという。
システム自身が改善・進化を続けていく
生産管理や販売管理、在庫管理、受発注管理、トレーサビリティシステム、原価計算など、食品製造業に必要な各種機能を備えたパッケージシステム。それがクラフトラインだ。会計、人事給与を除いた全ての業務を横断的・統合的に管理できるシステムではあるが、比較的IT化が遅れている中小規模の食品工場でも広く導入が進んでいる。事業規模や業態、工場の管理レベルに合わせて段階的に機能を拡張できるよう設計されているためだ。
食品製造の基本情報となるレシピや金額、オーダーなどをマスターデータ、つまり一本の「横串」の状態にして各業務が行えるため、こうした基本情報を何度も入力する必要がなくなる。また、こうした仕組みによりリアルタイム原価計算(直接費)やトレーサビリティも実現する。
さらに、クラフトラインには導入企業が広がるたびに進化する仕組みがある。ユーザー各社の要求に応じて独自に開発された機能が追加され、ソフトがバージョンアップしていく。保守契約を結んでいるユーザーには無償でこうした新機能が提供される。
「高額な費用をかけてカスタマイズしなくても、システム自身が改善・進化を続けていく。このフォローアップには、特に強いインパクトがありました」(西田社長)
業務をシステムに合わせていく
西田精麦が新システムに求めた要件は「受注処理から売り上げ処理、納品書出力、請求書出力、生産管理、在庫管理までが統合的に行えること」(津田氏)。食品部門でのシステム構築は17年10月に始まり、まず商品、得意先、納入場所、請求先、倉庫などのマスターデータの構築、続いて翌月には原料・副原料、仕掛品、資材・包材、レシピ、工程手順などのマスターデータの構築、併せて登録画面や各種機能の設定なども進めていった。そして18年5月には販売管理機能を稼働、旧システムと並行して運用を進め、同年8月にリプレースが完了した。
「クラフトラインは食品に特化したパッケージシステムなので、マスターデータ以外の基本的な機能はおおむね出来上がっています。従来の業務フローと違う部分は、システムをカスタマイズするのではなく、むしろ業務効率化の一環としてシステムに合わせていくことにしました」(津田氏)
図は食品部門で完成したクラフトラインのフローだ。販売管理と生産管理の二つのシステムで構成されているのが分かる。登録系画面ではマスターデータから読み込まれた情報が表示されるため、あらかじめ定められた情報をいちいち何度も手入力する必要がなく、登録作業は個別の業務内容に応じて確認・追加入力などを行うだけで済む。
また、このマスターデータがあるために、簡単な操作だけで個別入力情報が反映された納品書や運送会社別ピッキングリスト、製造指示書、発注書、請求書が出力される。
情報共有で意思決定が速くなる
食品部門での新システムの本稼働開始から、今年6月で1年10カ月を迎える。同社によると、この間で業務は大きく改善されたという。
「やはり入力の二度手間がなくなったことが最大の改善成果です。これまでただ無駄に消費していた時間は、間違いなく削減されたと思います」(同)
そして、西田社長にとっては経営者目線として、売り上げや出荷状況、受注残の状況、単価などを含め、各種数値情報がリアルタイムで把握できるようになったことが特に大きなメリットだと感じている。
「まず、ホーム画面に表れるアラート機能で現在の業務状況が一目で把握できますし、また外にいてもスマートフォンで商品単価まで確認できるのは便利です。例えば、新商品開発を行う際に、外出先で競合に当たる商品を見て、現状の自社商品の単価をチェックし、戦略を考えるというような使い方もしています。私だけでなく、社内でこうした情報を共有できることも非常に重要で、常に数値による裏付けが示されるため、意思決定も速くなります」(西田社長)
メリットを実感する在庫予約機能と完成登録機能
情報共有としては「在庫予約機能」の活用にもメリットを実感しているという。これまでは営業担当者が商品ロット状況を把握することはできなかったが、現在は営業側から指定した商品ロットをあらかじめ予約し、出荷指示ができるようになっている。
「以前は出荷担当者の判断で商品ロットを出荷するのが中心で、営業側から指定があった場合のみ手書きで指示を受けるかたちでした。基本的には以前出荷した商品よりも賞味期限が近い商品を出荷するのはNGなのですが、時々そうした商品を誤って出荷してしまい、返品になることがありました。現在はあらかじめ予約した商品がピッキングリストに上がってくるので、このようなミスも減りました」(津田氏)
また、商品のトレースを取る上では「完成登録機能」も効果を発揮している。この機能により、その日に使用した原料や完成した商品などの情報を登録することで、ロット別の在庫管理やトレース、原価計算が可能になる。
「現在はまだ月締めでの総合原価計算までしかできていませんが、今後はこうした機能を生かしながら、ロットごとの情報がひも付けされるようになれば、どの出荷ロットではどれだけの粗利が得られたかまで把握できるようになり、やがては歩留まりやコストの改善、効果的な販売・営業・商品戦略にもつなげられるようになります。こうした展開を期待しています」(同)
次のアクションを考えられる社員を育てたい
19年7月からは醸造部門、飼料部門でも順次、新システムへのリプレースを進めている同社。3部門の業務管理システムは、最終的には全てクラフトラインでの一本化を目指す。
食用麦事業の本格化を機に「食品メーカー」としてのブランド力を高めていきたいと強調する西田社長。新システムへのリプレースはそのための環境整備の一環になったのは確かだ。
「統合管理システムにより業務が見える化されることで自分たちの置かれた業務環境を把握し、社員の一人一人が次のアクションを考えられるようになれたら、より強い会社になれるのではないかと確信しています」(西田社長)
ローゼック 大津元希のコメント
目指すべきは「一本筋の通った」システム
クラフトラインは食品製造業で必要な機能がそろったパッケージソフトです。西田精麦さまではそのメリットを生かし、業務改善の軸に据えたことが非常に有効だったと考えます。従来の業務とは異なる部分もクラフトラインに合わせていくことで、改善活動につなげていました。業務管理システムの構築では、各現場の要望に応えようと安易にカスタマイズした結果、軸足がずれてシステム導入の本来の目標を見失ってしまうことがあります。本当に目指すべきは「一本筋の通った」システムなのです。