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富山名物「ますのすし」などの製造・販売を行う㈱源では2019年6月、㈱ローゼックの食品製造業向け生産販売統合システム「CraftLine(クラフトライン)」を導入。商品フローの情報が細分化され、正確かつスピーディーに収集できるようになり、状況の変化に合わせた迅速な対応が可能になったほか、従業員意識の向上などにもつなげられた。100年以上にわたって受け継がれるレシピ
ますのすしは笹で包んだマスの押しずしを木製の曲げ物に詰めた弁当で、富山県を代表する駅弁として全国に広く知られている。1900年に初代・源金一郎氏が料理旅館「富山ホテル」を開業し、その8年後に国鉄富山駅での構内営業・駅弁販売業の許可を得て創業、これが源の出発点となった。
地元では古くはあゆずしが広く名物として知られていたが、それに代わる名物を富山から発信したいと1912年に駅弁として開発されたのが、ますのすしだった。
「おけのスタイルや原料竹の絶妙なしなり具合による押し加減、笹を敷くことによる保湿、天然ゴムをかけることで持ち帰って食べる際にちょうどよいうま味加減になる工夫など、まさに先人の知恵が詰まった弁当です。伝統を守るのは大変なのですが、こうしたレシピに勝る方法がいまだになく、100年以上にわたり受け継がれているのです」と話すのは、同社・源和之社長。
自然の原料にこだわりながらも、その一方で「目には見えない改良」を毎年重ね、現代にも愛される品質を追求し続けている。
現在同社では、ますのすしをはじめ、「富山味づくし」「ぶりかまめし(冬季限定)」などの各種弁当、「ます昆布巻」「ぶりかま」などの各種惣菜ほか、年間約200種類の商品を直営店や全国の百貨店・量販店などに出荷している。
長年抱えてきた課題
源社長は、製造部長時代だった10年ほど前から、ある課題を痛感していたという。
「従来の業務管理システムでは、販売管理・生産管理といった管理業務は経験を積んだベテランにしか任せられず、なかなか若手が育たなかったこと、また昔ながらの地元の仕入れ業者さんとは電話やFAXでのやりとりが中心で、管理の一元化や見える化ができていなかったことなどです」(同)
加えて、同社ではそれまで調理のベテランスタッフが業務管理を兼務していたこともあり、勤務時間を調理に集中してもらいたいという思いもあった。
そこで、こうした課題を解決できる業務管理システムがないか、源社長自身も10年以上探し続けていたが、「これならいける」と思うものは、なかなか見つからなかったという。
「汎用タイプの業務管理システムに足し算か引き算をしたようなものではなく、食品の現場課題をきちんと捉えた専用のシステムを望んでいました。それが、2018年になってようやく出合えたのです」(同)
そのシステムこそ、ローゼックのクラフトラインだった(囲み参照)。
「食品製造業向け専用に作られていて、導入により何ができるようになるのかが分かりやすかったことがまず大きな魅力的でしたが、それ以上に同社の現場課題をくみ取る力、理解する力が圧倒的でした。システム作りに対する信念が伝わってきました」(同)
このクラフトラインの導入によって具体的にはどのようなメリットがもたらされたのか。部門別での導入経緯を通じて追う。肥大化し続けた旧システム
源の販売チャネルはJR駅構内の直営店や北陸新幹線の車内、ロードサイド店舗、観光施設(ますのすしミュージアム)、百貨店、量販店、そして通販などと非常に広い。
「多岐にわたるこうした販売チャネルに対応するため、以前使用していた業務管理システムではカスタマイズによりそれぞれ異なるフォーマットを組んで入力していました。併せて入力内容確認のために手書きの台帳へも記録していました」(営業副本部長 エリア店舗部長 佐々木浩晃氏)
システムはカスタマイズしようとするたびに新たな手間や大きなコストが掛かり、肥大化の一途を続けた。また手入力する画面がたくさんあるためにミスも発生しやすくなっていた。そして極め付きは19年10月に施行された「軽減税率制度」だった。旧システムでは「この制度に対応できない」とメーカー側から宣告されたのだ。加えて、パソコンのOSの更新も重なり、コストばかりがかさむ状況で、結果的にリプレースを余儀なくされた。
新システムで業務の質を後退させない
業務管理システムのリプレースに向けたプロジェクトは18年末に立ち上がり、源社長を含めて7人のチームが組まれ、およそ週1回のペースでミーティングが繰り返された。その中で最終的にクラフトラインに決まったのが、19年4月だった。
販売担当として、顧客のさまざまな情報や多様化するニーズを確実に拾い上げ、正しく応える。こうした現場の要求にシステムが対応できるかどうかが選定の鍵になったと佐々木副本部長は強調する。
「新システムで業務の質を後退させることがあってはなりません。クラフトラインにはこれまで食品業界で培われたきめ細かいノウハウが投入されており、私たちが現場をどう回していきたいかを明確にさせれば、それに追随できるシステムだと確信が持てました」
クラウドサーバータイプのシステムであることも重要なポイントになった。クラウドなら出先からでも直接注文できるようになり、顧客からの要求に迅速に対応できるようになるからだ。また、インターフェースの改善や機能の追加などに当たって小回りが利くことも、変化に柔軟に対応できるシステムとして大きな期待が持てたという。
実際のシステム構築は、ローゼックと幾度となくミーティングを重ねながら、「アジャイル開発」という手法で進めていった。これは小さな単位で「大まかな計画・設計→実装→テスト」を繰り返して全体のシステムを完成させていく手法で、仕様の変更や追加があらかじめ想定されるプロジェクトに向いている。ユーザーの細かいニーズにも応えやすく、結果としてより高い満足度が得られる。
状況の変化に合わせた迅速な対応が可能に
図はクラフトラインを中心とした統合管理システムのフロー図だ。「第1ステップ」が販売管理システム、「第2ステップ」が生産管理システム。それぞれの業務機能が連携することで、最小限の入力で指示や書類の出力ができるようになっている。新システムが20年1月に本稼働を始めた後は、商品が消費者の手に渡るまでの情報が細分化され、正確かつスピーディーに収集できるようになり、状況の変化に合わせた迅速な対応が可能になった。
「これまでは商品の出荷から入荷までの状況、販売額などが大きなくくりでしか分かりませんでしたが、こうした情報がリアルタイムで細かく見えるようになったことが最大のメリットです。従って、例えば新型コロナ禍で来店が少ない直営店に対して、細かく区切られた時間割りで時短営業にしたり、スタッフ配置の最適化を図ったりできるようになりました」(同)
そして、細かい情報が把握できるようになったことで、従業員の意識にも大きな変化が表れた。
「数字に基づいた改善意欲が明らかに高くなりました。データを落とし込み、自主的に業務改善を進めるスタッフも増え、実際に作業時間を10分の1以下に短縮できたといった報告も受けています。こうした業務改善を続ける中で、よりお客さまに寄り添っていけるための時間を捻出していければよいですね」(同)
過剰在庫で大量の廃棄
生産管理部門では従来、特定の担当スタッフによるエクセルを使用しての管理業務が中心だったが、データ入力ミスによる実際の在庫(棚卸)とのずれや、誤った判断による指示のばらつきなどが課題になっていた。
「原料在庫を絶対に切らしてはいけないとの意識が現場では強く、賞味期限にかかわらず慣習的に多めに発注指示を出す傾向がありました。従って、後で過剰在庫になり大量の廃棄が出てしまうこともあり、こうした状況が改善できないまま引き継がれていくことにも、危機感を持っていました」(生産本部 取締役本部長 田町郁夫氏)
生産管理部門でのクラフトライン導入は、販売管理部門で改善成果を見た後の20年4月に導入が決まった。
「実は以前、販売管理と連携しないタイプの生産管理システムの導入を試みたことがあるのですが、入力項目があまりにも多く、実際の運用には至りませんでした。クラフトラインは現場の要望が反映され、改善・修正もしやすいシステムなので運用のハードルが低く、加えて実行→チェック→改善→計画(DCAP)によるスピード感ある構築が魅力でした」(同)
属人化を解消できる可能性が高まる
生産管理部門でのシステム構築は20年7月に始まり、同年12月末に完成した。同部門でシステム導入による実際の効果が真に表れるのはこれからだが、田町本部長は既ににある変化を感じ取っているという。
「まだ完全に受け継がれるまでには至っていませんが、それまで特定の担当スタッフしかできなかった管理業務に、別の複数のスタッフでも対応できつつあり、属人化を解消できる可能性が高まってきたといえます。過剰在庫の問題も、リアルタイムの情報が共有されることで、解決への道筋が示されました」(同)
従業員の意識改革、教育、労働環境の改善にもつなげたい
今後は新システムの運用により業務改善だけでなく、従業員の意識改革や教育、労働環境の改善などにもつなげていきたいと源社長は強調する。
「感覚や経験に頼っていたベテランスタッフも、数値の裏付けにより正確さを求めるようになり、既に意識の変化が表れ始めています。こうした裏付けは若手に対する正しい教育にも結び付くのではと期待しています。そして、属人化の解消により若手にもいち早く価値ある仕事を任せられるようにし、ゆとりある業務シフトを実現させたいと考えています」(源社長)
システム自身で改善・進化を続ける「クラフトライン」
ローゼックのクラフトラインは生産管理や販売管理、在庫管理、受発注管理、トレーサビリティシステム、原価計算など、食品製造業に必要な各種機能を備えたパッケージシステム。会計、人事給与を除いた全業務を横断的・統合的に管理できるが、事業規模や業態、工場の管理レベルに合わせて段階的に機能を拡張できるよう設計されているため、比較的IT化が遅れている中小規模の食品工場でも広く導入が進んでいる。
食品製造の基本情報となるレシピや金額、オーダーなどをマスターデータ、つまり1本の「横串」の状態にして各業務が行えるため、こうした基本情報を何度も入力する必要がなくなる。また、この構造によりリアルタイム原価計算(直接費)やトレーサビリティも実現する。
さらに、クラフトラインには導入企業が広がるたびに改善・進化する仕組みがある。ユーザー各社の要求に応じて独自に開発された機能が追加され、ソフトがバージョンアップしていく。保守契約を結んでいるユーザーには無償でこうした新機能が提供される。
ローゼック 宮本信行のコメント
業務管理システムの導入・運用は「二人三脚」で
業務管理システムの導入・運用は、ユーザーと私たちシステム会社で課題を共有し合いながら、二人三脚で進めていくことが不可欠です。システムの構築は私たちだけでできるものではなく、マスターデータの整備や問題点の抽出、意見交換など、ユーザー側でも取り組んでいただくことがたくさんあります。源さまはベクトルを明確にし、私たちと共に組織力でこのプロジェクトを乗り越えていただいたことで、より良いシステム構築を図れたと考えています。