株式会社旭製菓様

原価変動シミュレーション機能で原材料仕入れ価格の上昇圧力への対応に手応え
月刊食品工場長 2022年6月号より転載

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かりんとう、グルメポップコーンを製造・販売する㈱旭製菓は2022年2月、㈱ローゼックの食品製造業向け生産販売統合システム「CraftLine(クラフトライン)」に原価変動シミュレーション機能を付加、これにより今後の原材料仕入れ価格の上昇圧力への対応などに手応えが得られたという。原材料価格の高騰がますます深刻になる中、原価変動シミュレーションはどのような役割が果たせるのだろうか。

100種類以上に及ぶ多品種のかりんとうを提供

1924(大正13)年の創業以来、かりんとうの魅力をひたむきに追求し続ける旭製菓。オリジナルブレンドの小麦粉や実際に生産地に足を運び探し出した砂糖など、素材に徹底的にこだわり、愛情を込めて同社のかりんとうは作られる。

「かりんとうというと、皆さんは黒糖の蜜がかかっているおなじみの姿を思い浮かべると思いますが、弊社では定番商品だけでも100種類以上にも及ぶ多品種のかりんとうをご提供できるのが強みです」と話すのは4代目の守下綾子社長。商品数は地元ファンからの要望もあり、1995年に直売店を開設したときから増えていったという。特に人気なのは、生地に雪のように真っ白で上品な甘さとコクのあるザラメをまぶした「こゆきかりんとう」、ごまの香りに赤穂の天塩がマッチした「ごま大学かりんとう」、ごぼうチップを生地に練り込み、しょうゆ蜜に七味唐辛子を利かせてきんぴらごぼうの味を再現した「きんぴらごぼうかりんとう」だ。いずれも全国菓子大博覧会(全国菓子工業組合連合会など主催)の最高位「名誉総裁賞」を受賞した商品である。

近年はかりんとう製造で培った蜜がけ技術を応用させた商品開発にも力を入れており、年にはポップコーンのブランド「Anthony’s(アンソニーズ)」を立ち上げ、自社商品はもとより、OEM商品の販路拡大を続けている。

生産拠点は本社・西東京工場と花園工場(埼玉県深谷市)の2カ所。20年には黒糖と小麦をコンセプトにしたカフェ「Layer Cafe(レイヤーカフェ)」を花園工場内の荒川を臨める場所に開設し、ここを新しいタイプの菓子提案を通じた、ファンとのコミュニケーションの場としている。

販売・生産管理のシステムを「クラフトライン」にリプレース

同社では販売管理と生産管理について、以前は「Microsoft Access」(マイクロソフト社)をベースにしたシステムを利用していたが、各部署間での連携が取れておらず、メンテナンスも困難になってきたことから18年4月、統合型システムへの移行プロジェクトをスタートさせた。採用したのは、ローゼックの食品製造業向け生産販売統合システム「CraftLine」(以下、クラフトライン)だった。

クラフトラインは生産管理から販売管理、在庫管理、受発注管理、トレーサビリティ、原価計算まで、食品製造業に必要な各種機能を備えたパッケージシステム。事業規模や業態、工場の管理レベルに合わせて段階的に機能を拡張できるよう設計されており、比較的IT化が遅れている中小規模の食品工場でも広く導入が進む。

レシピや工程、販売単価、仕入れ単価、受注数、製造計画数、ロット別在庫など、部門ごとに持っている情報を一元的に管理できるため、同じ情報を何度も入力する必要がなくなる。特に業務の見える化を促す各種機能がユーザーの支持を集め、製造原価と標準原価との乖かい離りや製造・原材料入荷の遅延、停滞在庫などをリアルタイムで警告してくれる。

「完全なカスタマイズで構築されるシステムと異なり、柔軟性の高さが採用の決め手となりましたが、導入後に特に大きなメリットを感じたのは、他社さまのために作られた機能が私たちのシステムにもアップデートされ、活用できるようになるという仕組みです。カスタマイズとして発注しなくても成長を続けていくシステムという思想は、とても魅力的でした」(経営企画室係長野口晃輔氏)

クラフトラインは導入企業が広がるたびにユーザー各社の要求に応じて独自に開発された機能が追加され、ソフトがバージョンアップしていく。保守契約を結んでいるユーザーには無償でこうした新機能が提供されるのだ。

精度の高い実際原価をスピーディーに導き出したい

旭製菓の商品開発部では従来、エクセルを利用して原価計算を行っていたが、手作業で行う操作が多く、手間と時間がかかっていた。また、計算の元になる原材料単価の見直しを定期的に行っていたが、昨今の急激な価格変動や歩留まり、廃棄ロスが十分反映されているとはいえなかった。こうした実態を把握するためには、実際の仕入れ価格や製造日報上の歩留まりを反映した実際原価を導き出す必要がある。

「特に、近年の原材料価格の高騰に伴う仕入れ価格の上昇圧力に適切に対応したいという思いがありました。そのためには、まず原材料価格の上昇分が製造原価にどれだけ影響を与えるのかを正確に把握しなければなりません」(生産管理部課長荻野雅人氏)

今後も原材料価格の上昇は予想される。過去の実績値に基づいて計算される原価だけでは不十分で、将来の予測を考慮に入れる必要があった。

原価変動シミュレーションの機能を追加

「原材料価格の変動が製造原価に及ぼす影響を簡単に確認したい」という旭製菓の要望を受けたローゼックは、原価変動シミュレーションを含めた原価計算機能をパッケージ標準機能として開発し、利用中の全クラフトラインユーザー企業に無償提供することを決めた。この無償提供は、クラフトラインが導入後もアップデートし続け、全ユーザーのソースコードが同一であるために可能だった。




原価変動シミュレーションは、

  1. シミュレーションしたい原材料・資材の選択
  2. 原材料・資材単価の変動額または変動率の入力
  3. 実行ボタンのクリック
のわずか3ステップで行うことができ、誰でも簡単に扱える。図はそうして打ち出されたシミュレーション結果例(デモ用画面)だ。

ここでは、レシピマスタや単価マスタなどから計算された標準原価とシミュレーション後の原価を比較し、それぞれの商品ごとに粗利(限界利益)がどのように変化したかが分かる。さらに、現在の内容量を増減した場合の粗利もシミュレートが可能なため、販売価格と内容量を見直すための参考値として活用できる。

「この機能があれば、仕入先から価格改定の連絡が来た時点で即座に製造原価への影響を把握できます。また、販売価格を据え置くための内容量の調整もしやすくなります」(野口係長)


見える化で得られる安心感

仕入れを担当する荻野課長によると、これまでは原材料の単価が上がっても、商品原価がどれだけ高くなるのか、漠然としていてよく分からなったという。

「具体的な数字が見えて初めて、製造現場に対して『原材料価格がこれだけ上がっているので、ロスを出さないようにしてほしい』と説得力のあるお願いができますし、営業担当部にも適切な見積もりをお願いできます。原価変動の見える化はまさにこういうときこそ役立つと思います」(荻野課長)

そして、守下社長は原価の変動シミュレーションができるようになったことについて、「経営者として安心感が得られるようになった」と強調する。

「もともとはあまり重要視していなかった原価変動でしたが、昨今は誰も経験したことのないほどの原材料の高騰が起こっています。製造原価にダイレクトに響いてくる高騰は、まさに異常事態と言えます。そんなとき、実態を正確に把握し今後が見通せることで、少なからず安心感が得られるようになります。今後の対策への足掛かりも得られます。営業サイドの観点からしても、納入価格の交渉の際、なぜ上げていただかなくてはならないのか、なぜ内容量を減らさなくてはならないのかを説明する上で、根拠となる数字は必須となります。そういう意味でも原価変動の見える化は今後、特に重要になると考えます」(守下社長)

日本の菓子文化の価値を高めたい

原材料の高騰の下、食品業界全体で厳しい状況は続くが、物流コストの改善や仕入れロットの変更など、こういうときだからこそ、これまでは考えもしなかったことにも挑戦したいと話す守下社長。今後は海外展開も視野に入れ、日本の菓子文化の価値を高め、広く世界中に認めてもらうのが目標だ。

「価格勝負に巻き込まれるばかりでなく、正当な販売価格の下で『こんなに素敵でおいしいお菓子が食べられるなんて幸せだね』と、心から評価してもらう存在になりたいと願っています。そのためのさまざまな挑戦が始まります」(同)

ローゼック 中村巧哉のコメント
お客さまのアイデアでより高機能なクラフトラインに進化

もともとクラフトラインは原価計算に強いパッケージで、単一商品における原価変動シミュレーション機能を持っています。しかし、複数原材料・資材、複数商品をまとめて再計算する発想はありませんでした。今回の機能追加は旭製菓さまのアイデアに負うところが大きく、とても感謝しています。

今後もお客さまのご要望に真摯(しんし)に向き合い、長く使い続けられるようバージョンアップを継続していきます。

(ローゼック 中村巧哉)
月刊食品工場長 2022年6月号より転載