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国産原料を使用した冷凍惣菜などを製造・販売する神奈川県大和市の(株)ニッコーは、2021年10月に旧業務システムから(株)ローゼックの食品製造業向け生産販売統合システム「CraftLine(クラフトライン)」にリプレース(置き換え)。それまで約23時間かかっていた原料の発注作業が3時間ほどに短縮されるなど、業務改善で大きな効果が得られた。「できる限りシンプルに」
1984年、東京都内の生活協同組合向けに産直原料(農・畜・水産物)を使用した冷凍惣菜の製造・販売を開始したニッコー。その後は大手居酒屋や百貨店、宅配業者など、首都圏から東北、関西、全国へと順次販路を広げ、今に至る。
現在、本社のある神奈川県大和市と熊本県八代市に工場を持ち、日々刻々と変動する受注、そして頻繁に切り替わる製品にも柔軟に対応できる生産体制の下、年間で180種類以上にも及ぶアイテムを出荷している。
国産原料のみを使い、製造方法は「できる限りシンプルに」(同社)。
専務取締役の山崎隆志氏は「家庭の台所にあるようなシンプルな原料だけを用いて、健康的で本当に良いと言える食品を提供したいという意味です。化学調味料や加工助剤などを多用することなく、たとえコストが高くなっても、天然の原料を使用し、作り手の経験と技でおいしさを演出していくのが弊社のこだわりです」と話す。
寄付金を払っているようなもの
さて、同社では従来、受注から生産、在庫までの管理で某社の業務システムを利用していた。だが、しばしば起こるバグに悩まされていた。
「入力の手順にこつのようなものがあり、それを認識して操作しないと、入力のたびにバグが発生してしまうのです。時間をかけて入力を完了し、いざ印刷しようとしたらデータがほとんど飛んでしまい一からやり直し。従って、バグに備えるために並行して電卓もたたいて計算していました。また、システムはカスタマイズも多かったのですが、システム会社の担当の方が他部署に移ってしまい、加えてカスタマイズの内容が引き継がれていなかったために、実際には保守もお手上げ状態でした」(山崎専務)
解決ができていないにもかかわらず、保守費の請求書が毎月のように届く。「システム会社に寄付金を払っているようなもの」と頭を抱えた。
もう一つ、生産計画についてはマイクロソフト社のエクセルで組んでから前述の業務システムにデータを再入力していた。バグに備えるという意味での「二重入力」でもあったが、生産計画は日々や時間単位の受注状況に応じて臨機応変に組み替えなければならない。このような状況下で急な変更があると、重大なトラブルを招く可能性がある。
「システム間でのリアルタイム連携ができないため、業務システムに入力する担当者に計画変更したことが伝わっておらず、組み替えができていなかった場合、生産が始まる段階になって原料がないことに気付くという事態も何度かありました」(生産部 課長 土井宥一郎氏)
こうした課題を背景に同社では2019年8月、山崎専務を中心に3人のプロジェクトチームが組まれ、業務システムのリニューアルに踏み切り、検討を経てローゼックのクラフトラインの採用が決まった。
一連の業務管理を一つのシステムで全て網羅
クラフトラインは生産管理から販売管理、在庫管理、受発注管理、トレーサビリティ、原価計算まで、食品製造業に必要な各種機能を備えたパッケージソフト。事業規模や業態、工場の管理レベルに合わせて段階的に機能を拡張できるよう設計されており、比較的IT化が遅れている中小規模の食品工場でも広く導入が進む。
レシピや工程、販売単価、仕入れ単価、受注数、製造計画数、ロット別在庫など、部門ごとに持っている情報を一元的に管理できるため、同じ情報を何度も入力する必要がなくなる。特に業務の見える化を促す各種機能がユーザーの支持を集め、製造原価と標準原価との乖離(かいり)や製造・原料入荷の遅延、停滞在庫などをリアルタイムで警告してくれる。また、導入企業が広がるたびにユーザー各社の要求に応じて独自に開発された機能が追加されるようになっており、ソフトが随時、バージョンアップされていく。保守契約を結んでいるユーザーは無償で新機能を共有できるため、カスタマイズをしなくてもシステムが自ら成長していくというわけだ。
「受注から生産、販売までの一連の業務管理を一つのシステムで全て網羅できることが、クラフトラインを選ぶ決定打となりました。業務フローがつながるため、情報を二度打ちすることから解放され、非常に効率化が図れるのではないかと期待しました」(山崎専務)
管理情報を繰り返し入力する手間がない

新システムは20年4月から受注・販売管理システムが、21年10月から生産管理システムがそれぞれ稼働を開始し、業務システム全体が完全にリプレースとなった。
図に新旧の業務システムのフローを示した。最大の違いは人手を要する業務の数だ。旧システムでは受注予測や確定受注の情報を手入力で生産計画(週間予定表、エクセル)に落とし込み、さらにまた手入力で製造指示を出す。その後も原材料在庫入力、原料発注、そして外部営業倉庫送付ファイル(エクセル)の作成まで、何度も人手を介さなくてはならないのが分かる。
一方、クラフトラインを中心とした新システムでは、受注予測と確定受注の段階で情報を入力すれば、生産予定表の作成から製造指示、完成登録、発注スケジュールの作成、原料入荷まで自動でデータ連携される。各段階では必要に応じて修正を行えるようになっているが、情報が一つのシステム上でつながっているため、管理情報を人手で繰り返し入力する手間がなくなったのだ。
なお、新システムはクラウド上に載せられているため、管理情報は権限のあるユーザーなら、タブレットPCやスマートフォンなどを利用して外出先からもアクセスできる。
原料の発注業務を新人社員にも任せられる
新システム稼働後、特に原料の発注業務で大きな改善効果が得られた。
従来、山崎専務は1週間分の発注業務の作業を、製品の受注が比較的落ち着く土日に1人で行っていたという。土曜日の朝7時に出勤し、夜中の3時にいったん帰宅、少しの睡眠を取った後、日曜日の朝9時に再度出勤し、正午ごろまで、作業は2日間で約23時間にも及んだ。山崎専務が1人でこの作業を行っていたのは、バグの防止を含め、旧システムの操作には一定のスキルが必要だったためだった。こうしたことから、発注業務はまさに属人化していたのだ。
「旧システムでは複数の帳票類を開きながら作業を行わなくてはならない、発注情報が後で一覧できないなど、情報の見え方に難があり、そのため非常に時間がかかり、加えて二重発注してしまうミスもしばしば起こりました。新システムでは必要な情報が一つの画面に集約されて表示されるよう作り込んでいただいたので、確認と入力の作業が大きく改善されました。しかも、とても使いやすいシステムになったことで、原料の発注業務は新人社員に任せることも可能になり、膨大な時間を割いて行っていた業務が、土曜日のわずか3時間ほどで完了させられるようになりました」(同)
急な受注にも確実かつスムーズに対応
生産現場での対応も次のように改善された。
「生産現場では急な受注にも確実かつスムーズに対応できるようになりました。注文情報がリアルタイムで一斉に共有され、在庫状況と照らし合わせて、いつどれだけ製品が不足するかが一目で把握できるようになったためです。当初組んでいた計画よりも早く作らなくてはならない場合はアラートを表示してくれます。また表示期間を指定すれば、いつまでにどれだけの製品を作った方がよいという具体的な指示も出してくれます。こうした機能はとても助かっています」(土井課長)
また、クラウドを通じて各部門の担当者が受注や生産、在庫の状況を情報共有できるようになったため、部門間での対応連携も図りやすくなったという。
新たなスタートライン
今後は新システムを製造現場の改善にも生かしたいという。
「例えば、どれだけの人数でどれだけの時間をかけて製品が完成しているかなど、システムの活用を通じて現場を見える化し、まずは現状の課題を正確に把握したいと思います。その上で、より効率的な製品作りを目指します」(同)
現在、北海道函館市に新たな生産拠点を建設中(23年3月1日現在)の同社。そこでは原料野菜の栽培から行い、これまでと異なる温度帯、また新ジャンルの製品作りにも挑戦していきたい考えだ。
「弊社は新しいこと、難しいことに対してもチャレンジ精神で向き合い、成長してきました。お客さまの望む製品、より高品質な製品を作るため、これからも機械の投資をしますし、新しい社員も増やしていきます。特に主婦層の人材を確保していきたいのですが、そのためには働き方改革も重要になり、事務系の仕事はテレワークでもできるようにすることも視野に入れなければなりません。こうした目標の下、誰でも使いやすい業務システムの存在は前提条件になるでしょう。そういう意味でも、クラフトラインの導入は新たなスタートラインになったと言えます」(山崎専務)
ローゼック 大津元希・中村巧哉のコメント
話し合いや試行錯誤を重ねて課題解決へ
クラフトラインは食品製造業で必要な機能がそろったパッケージソフトです。発注に関する機能もありましたが、特に強くご要望いただいたのは「シンプルで分かりやすい画面・操作にできないか」ということでした。ニッコーさまとは何度も話し合いや試行錯誤を重ね、課題解決に結び付けていきました。今回ニッコーさまと共に作り上げた機能や画面は、ほかのお客さまにもご利用いただけ、好評を頂いています。今後もお客さまのご要望に真摯(しんし)に向き合い、より良い業務システムをご提案していけるよう努めてまいります。