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弊社は食品製造業向け基幹システム「クラフトライン」などを独自に開発・販売し、食品製造業界のIT化をサポートしているソフトメーカーです。2023年2月には、食肉原料の卸売り・加工・委託製造を行う㈲清和フーズ(以下、敬称略)稲城工場にペーパーレスシステム「イージー帳票」を導入いただき、それまで手書きで管理していた自社便トラックの運行記録や製造日報をペーパーレス化することで、大きな業務改善が得られました。本稿では同社の取り組みをリポートします。研究を重ねて完成した「清和のチャーシュー」
1995年、小・中規模の精肉店向けに食肉の卸売りをトラック1台でスタートした清和フーズ。現在はトラック4台体制で東京都内を中心に営業を行っています。その後、経営危機に陥っていた取引先工場の経営に参画して再建、2012年に清和フーズ稲城工場として新たなスタートを切りました。
新工場では従来の社員とパートタイマーを継続して雇用し、もともと好評だったチャーシューの味を継承。さらなる研究を重ねて「清和のチャーシュー」を完成させました。現在は「やわらか角煮」「ハンバーグ」「牛セイロ」など多彩な製品を製造・販売、大手メーカーでは対応できない小口の製造にも対応できるのが同社の強みです。
また、従業員から「個人消費者へのネット販売も視野に入れてほしい」という提案が出るなど、トップダウンではなく「会社全体で議論できる」社内風土も大切にしているそうです。
危機感と行政の後押し
多くの食品メーカーでは、現在でも帳票や伝票を中心に仕事が流れていると言えます。同社が属する食肉加工業界も例外ではありません。受発注や製造記録、品質記録、労務記録など多くの情報が、紙媒体のアナログデータとして記録・伝達・保管されています。
その一方、デジタルデータを前提とするDX(デジタルトランスフォーメーション。デジタル技術を利用して仕事のやり方や生活様式が変容していくこと)への対応は、企業規模の大小を問わず避けて通ることはできません。また、東京都健康安全研究センターの監査の際に「紙ではなく電子データで帳票を保管してもよいか」と確認したところ、「きちんと保管できればよい」との回答だったそうです。
同業者ではまだ少ない帳票の電子化を清和フーズが推進した背景には、このような危機感や行政の後押しがありました。
電子化を進めた帳票と従来課題
そこで、清和フーズでは主に①自社トラック便の運転日報②HACCP帳票③製造や袋詰めの日報――などの帳票で電子化を進めることを決めました。これらの帳票では従来、さまざまな課題を抱えていたからです。
①自社トラック便の運転日報
同社では自社所有のトラックで納品しています。各運転手が直行・直帰する場合は、各自で紙帳票の運転記録を提出してもらい、本社で確認者がチェックしていました。その際、運転手がアルコールチェッカーの検査結果画面をスマートフォンで撮影・メール送信していましたが、画像の管理が大変な手間でした。また、22年4月より酒気帯びの確認と記録の保存が義務化されたこともあり、撮影時刻を同時記録するなど、より厳格に運用したいと考えていました。運転日報とは別に、冷凍車の温度記録と勤怠管理記録の2枚の帳票を使用していましたが、基本的には自己申告制で、記載された温度や出退勤時刻の情報が本当に間違いないのかを確認する方法はありませんでした。
②HACCP帳票
加熱時の中心温度など品質に関わる情報を記入する帳票は、従来はエクセルで作成後、印刷していましたが、管理項目の追加・変更や得意先の増加に伴い、帳票の種類や印刷枚数も年々増え、手書きの情報をパソコンに打ち込む作業が追い付かなくなってきました。当初は工場内にパソコンを持ち込み、現場の作業者にキーボードで入力してもらおうと思っていたそうですが、製造効率が著しく低下したため断念。また、規定値を逸脱した場合にその場で確認したくても、紙であるが故にタイムラグが生じ、目視で異常がないか確認する負担も大きかったといいます。
③製造や袋詰めの日報
工場内で使用する製造日報や袋詰め作業の日報は、日々作業内容が異なるため、前日にエクセルで作成していました。現場でこれらの帳票に製品の出来高や完成日、原料の投入量、入荷日(ロット番号)を記入した後、事務所でパソコンに手入力していましたが、タイムラグがあるため記憶違いによる誤入力が発生することもありました。また、使用したロット番号による製品や原料の検索は紙をめくって探すしか手だてがなく、情報検索の精度や速度に課題がありました。食品表示ラベルの現物も貼り付けてチェック・保存していましたが、一定の文書保存スペースを必要としていました。
業務改革のスピードを重視
これらの課題を解決するため採用されたのが、ペーパーレスシステムの「イージー帳票」です。同システムは多くの会社が使用しているエクセル帳票のレイアウトをそのままの形で入力画面を自動生成するのが特徴で、専任のシステム担当者の配置は不要です。また、もともと生産管理システム向けに製造日報情報を現場から吸い上げる目的で開発されたため、CSV形式のファイルを出力することで外部システムとの連携を実装する予定でした。
清和フーズがイージー帳票を知ったきっかけは、社内サーバーを設置した業者の紹介でした。体験利用の結果、課題の多くが解決できそうなことが分かり、導入費用もランニング費用も非常に安価なため、時間を使って競合製品と比較検討することはせず即決。業務改革のスピードを重視したそうです。
現在、イージー帳票を使用するモバイル端末はスマートフォン5台、タブレットPC5台。タブレットPCは大手通販サイトで購入しコストを抑えました。防水カバーを使用し水回りの多い現場でも利用しています。事務所では従来からあるノートパソコンから接続しています。アクセス権限を細かくコントロールしない限り、何人・何台で使用しても追加のライセンス費用が不要なため、気軽に端末を増やせます。
帳票電子化後の業務改善
同社では前述の日報や帳票のほか、X線チェックや手袋交換、従業員の健康チェックなど計8種類の日報・帳票を電子化し、その結果、運用開始から2カ月の段階で次のような業務改善が得られました。
①帳票情報をクラウド上で管理するので、従来は本社に問い合わせないと確認できなかった内容を、工場でも外出先でも確認できるようになった。得意先からの問い合わせに短時間で対応することで、顧客満足度の向上が期待できるようになった。
②作業者本人が現場で入力するので、事務所でのパソコン打ち直し工数がゼロになり、誤入力や勘違いの低減も期待できるようになった。
③帳票の提出状況が一覧表示されるため、書類提出漏れがなくなった。
④本社、工場、社外など場所を問わず承認業務ができ、効率化が図られた。
⑤アルコールチェッカーの画像がタイムスタンプ付きで保管されるため、運転開始前の酒気帯びチェック実施を確認でき、法令順守を徹底できるようになった。
⑥中心温度などのCCP規定値を逸脱した異常なデータが入力されるとメールで警告が飛ぶため、発生してすぐに現場に確認できるようになった。
⑦表示ラベルを画像で保存するので、紙の原本保存の必要がなくなった。
⑧記録用紙の使用量が減ったため、保管場所がほぼ必要なくなり、スペースを有効活用できるようになった。
⑨帳票の整理統合や業務の見直しをするきっかけとなった。
現場への丁寧な説明が重要
システム導入に当たり、同社が特に留意したことは、現場の自発性や提案を尊重し、押し付けないことです。「こういうの、できるけど」と、興味を持ってくれそうな現場の方にタブレットPCを渡してみたところ、多くの意見や注文が出てきました。当初は高齢の職人さん向けに紙を併用していましたが、現場同士で教え合って操作にも慣れ、導入後2カ月経過した現在では一切紙を出さなくなり、社内にペーパーレスの文化が浸透してきたようです。
当初は「こんなの毎日できないよ」という否定的な声もありましたが、パソコンではなく普段使用しているスマートフォンやタブレットPCで操作できることで拒否感が和らぎました。インボイス制度や電子帳票のデジタル化という国の方針があり、「これからは紙は駄目よ」と強く言えるようになったのも追い風だったのかもしれません。また、イージー帳票では画面のデザインを変更する場合、エクセルで帳票のレイアウトを修正し再度読み込みで反映できるため、いちいち開発元に頼む必要がありません。ユーザー自身で見やすい画面に修正できる機能があることも、停滞することなくペーパーレス化を推進できた理由かもしれません。
当初、イージー帳票では難しかった棚卸しはエクセルで対応、営業担当者の伝票発行業務もモバイルプリンターで行っています。今後はイージー帳票のCSVデータ出力機能を利用して、「データの二次利用範囲を広げていきたい」とのことです。
ローゼック 小池 昭一郎のコメント
イージー帳票は、文字通り簡単・低コストで導入できるペーパーレスシステムです。清和フーズさまの場合は、すぐに始められる帳票からデジタル化をスタートし、ペーパーレスに対する社内の理解を得ながら短期間で運用を軌道に乗せました。また、ドライバーの酒気帯びチェックを画像で記録するなど、システム開発過程では想定していなかった使い方をされており、弊社も清和フーズさまから多くのアイデアを頂きました。今後もユーザーさまと一体となって製品を改良していきたいと思います。