株式会社霧島湧水様

モニタリング帳票で使用していた紙の削減や管理業務の効率化を実現
月刊食品工場長 2024年5月号より転載

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鹿児島県志布志市の㈱霧島湧水志布志工場では、2023年2月に㈱ローゼックのペーパーレス化システム「イージー帳票」を導入。モニタリング帳票で使用していた紙の削減や管理業務の効率化などを実現した。

体に優しくシリカが豊富な志布志の水を全国に出荷

ナチュラルミネラルウオーター「志布志の水」の専門メーカーとして2011年7月に創業した霧島湧水。本社は福岡市だが、工場は採水地でもある鹿児島県志布志市に置かれている。現在は2lと500ml、555ml のミネラルウオーターを製造。NB、PBを合わせて約20アイテムの商品が、ここから全国の量販店、デパート、コンビニエンスストア 、ドラッグストアなどに出荷されている。

「志布志の水は赤ちゃんからお年寄りまで安心して飲んでいただける優しい軟水で、多くの方々からとても飲みやすい水というお声を頂いています」と話すのは執行役員工場長の加世田伸一氏。霧島山系の広大なシラス大地で自然ろ過され、地下40〜50mから湧き出た志布志の水は、俳人の種田山頭火が「飲まずには通れない水がしたたる〜志布志にて〜」と歌ったように、古くから「おいしい水」として知られている。硬度の軟水で、体への浸透が早く吸水性に優れ、老廃物の排出を促しやすいとされている。また骨や関節、血液、皮膚、毛髪、 爪の健康のためにも重要な栄養素であるシリカが豊富に含有されているのも大きな特徴だ。

FSSC22000の認証を取得している志布志工場。国際基準の厳格な管理体制の下、安全で安心なミネラルウオーターがここから全国に届けられる。

急な受注変更で無駄になるモニタリング帳票の用紙

同社では20年ごろから各現場での働きやすさの向上やSDGsに向けた取り組みの一環としてペーパーレス化を目指していたが、その背景には次のような課題もあった。

「特に紙を多く使用するのが、製造工程の状況を記録するモニタリング帳票です。毎日、1〜2時間かけて帳票用紙の準備作業を行うのですが、作成後に急な生産変更が入ることが多く、そのたびに用紙が無駄になってしまう状況がありました。また弊社の工場では外国人スタッフも多いため、紙への記録では書き間違いなどが多く、その確認や修正の作業に追われてしまうことも大きな課題になっていました」(同)

加えて21年からタブレットPCで情報共有アプリを利用していた経緯もあり、現場でのコミュニケーションツール、記録管理ツールなどを一つのモバイル端末で扱いたいというニーズもあった。

「製造現場でのさまざまな情報を生産管理システムで統合的に管理するということも検討していましたが、コストも時間もかかり、決して現実的ではありませんでした。また大がかりなシステムを入れることで現場のそれまでの作業が大きく変わり、混乱を招いてしまうことを恐れました。そんな検討の中、『月刊食品工場長』を読んで見つけたのが『イージー帳票』でした。従来と変わらない内容でモニタリング帳票の電子化を実現でき、弊社にとってはDX(デジタルトランスフォーメーション)化のスタートを切る上でも最適でした」(同)

エクセルのレイアウトをそのまま取り込めるイージー帳票

イージー帳票は工程管理や設備管理、在庫管理、健康チェックなどの記録帳票をクラウド上で一元的に管理し、さらにペーパーレス化できるITシステム。これまで記録項目ごとにさまざまな書式で用意されてきた紙の帳票を製造現場に持ち込むことなく、どのような帳票への記録も、タブレットPCやスマートフォンなど1台のモバイル端末で入力する作業に変えられる。タブレットPCの機種が限定されないため、ユーザー側で幅広い選択肢が得られる。多くの工場では、主にエクセルを使用して紙の帳票を作成しているが、イージー帳票の最大の特徴は、ローゼックが独自に開発した専用の帳票作成ソフト上で、これまで使用してきたエクセルのレイアウトを簡単に取り込み、再現が可能なことだ。ペーパーレス化のためにわざわざ一つ一つ帳票レイアウトをゼロから作り込む必要がなく、製造現場でもそれまでの帳票イメージを維持しながら記録を入力できる。

「帳票類を電子化するシステムは数社から販売されており、比較検討しました。その中でエクセルデータをそのまま取り込んで引き継げる機能は導入当時、イージー帳票以外にはなく、これが採用の最大の決め手となりました」(同)

取り込まれたエクセルのレイアウトには、アイコンによって機能を視覚化されたエディタツールを使用してプルダウンやチェックボックス、リアル時間の埋め込みなどの機能を誰でも簡単な操作で付加・編集できる。こうした編集の工夫で文字や数値を書き込む作業をできるだけ減らせば、「書き間違い」「判読できない」など記入ミスを防ぎ、その後の確認・修正作業が軽減されるようになる。帳票アプリを通じて写真を撮影したり、PCに保存した画像を貼り付けたりすることもできるため、現場の状況をリアルタイムに共有できるほか、製品ラベルチェック表の作成・記録も簡単に行える。低コストで導入でき、極めてシンプルなシステムではあるが、もともと生産管理システム向けに製造日報情報を現場から吸い上げる目的で開発されたという経緯もあり、外部システムとの連携も可能になっている。

地道な教育で着実な落とし込み

同社は23年2月、既存の1台のPCを管理用PCとして利用し、タブレットPCもほかの用途で利用していた3台をそのまま引き継ぐかたちでイージー帳票を導入。モニタリング帳票の一部から電子化を進め、徐々に拡大させた。こうして約半年間の試験運用を経て同年8月までにはほぼ全てのモニタリング帳票の電子化を完了した。

「スタッフの皆さんはタブレットPCの操作自体に慣れていなかったので、しばしば入力方法に戸惑うことがあり、導入当初での運用は決して順調ではありませんでした。手書きの何倍もの時間がかかってしまうこともありました。ですが、操作方法をしっかりと覚えた現場の責任者が丁寧に何度もスタッフに教えていくという地道な教育を続けていくことで、着実に落とし込んでいくことができました」(製造課課長代理山下剛弘氏)

表れた改善効果

こうしてイージー帳票を導入してからは、次のような改善効果が表れた。

①帳票で使用する紙は半減以下へ従来は1カ月で2500〜3000枚以上の紙を帳票作成で使用していたが、現在は約1200枚と、半数以下になった。

「生産予定の急な変更があった際にも、PC上で修正すれば全工程でその変更が反映されるので、これまでのように出力し直すことによる紙の無駄な廃棄が出ません」(同)

なお、製造アイテムごとのモニタリング帳票はほぼペーパーレス化を完了しているが、例えば機器設備の自主点検記録や日々のサニテーション確認記録など製造日ごとの帳票については、現状のシステムでは複雑になるため、紙で記録している。また製品に貼り付ける現品票なども紙を使用している。

②帳票用紙を準備する時間の短縮これまで、品質管理課では1アイテム当たり毎日1〜2時間かけて帳票用紙の準備を行っていたが、30分以内に短縮された。

従来はアイテムごとにエクセルデータがあり、入力した使用資材、ロットの記載・照合、製造日などを一枚一枚確認していたが、その手間が省けるようになったためだ。

③モニタリング帳票の内容がいつでもどこでも確認できるようになった

従来は製造現場で何か所見があって帳票に書き込んでも、その場で報告しなければ、1日の終わりに管理者が帳票を確認するときまでその所見に気付けなかったが、現在はタブレットPCを持っていればどこでも、また権限者であれば誰でもリアルタイムに現場での所見を確認できるようになった。また帳票をとじたファイルを探しに行かなくても、過去の記録をその場で確認できるようになった。

「以前は記録内容の確認のたびに帳票を持って品質管理課のスタッフが製造現場に出向いていたのですが、今は互いにタブレットPCを見ながら電話でやりとりするだけで済むので、確認作業の効率化につながっています」(加世田工場長)

④記録の書き間違いがなくなり、訂正作業がなくなった

外国人のスタッフが多いため、日本語に慣れていないと紙の帳票に文字を記入する際に書き間違いがしばしば発生し、そのたびに修正作業を余儀なくされていたが、電子化により文字を直接書き込むことが少なくなったため、こうした理由による修正作業が大幅に減った。 ⑤帳票の破れなどによる異物混入のリスクを抑えられるようになった製造現場に置かれている紙のモニタリング帳票は、破れると異物混入につながる可能性があったが、紙の帳票類を製造現場から減らせることでそのリスクを抑えられるようになった。また、記入に使用するバインダーやボールペンなどの持ち込みが不要になったことも、異物混入対策につながっている。

安全・安心で働きやすい職場づくりに向けても取り組みを強化

今後はモニタリング帳票以外の製造に関わるさまざまな情報についてもデータ化し、工場のスタッフで共有できる体制を構築していきたい考えだ。

「例えば、設備状況やメンテナンス部品の調達、トラブル報告などの情報をメモ形式でデータ化し、機械名や部品名などのキーワードで検索できるようにしたいと思います。その機械や部品に関わる修理や交換などの履歴が引っ張り出せれば、当時対応した人や対応状況などがすぐに把握でき、トラブルが見つかった際にも迅速に対応できるようになるからです」(同)

確かに飲料水工場は手作業に変えられない工程が多い。生産を止めないためには、いち早く機械の異変に気付くとともに、何か気付きがあれば対応を急ぐ必要がある。そんなとき、過去の履歴や対応状況などの情報はとても重要になる。

22年にはSDGs宣言を掲げた霧島湧水。その目標の一つである「環境保全」の一環として取り組みを進めてきた紙の削減は、一定の成果を上げた。今後は別の目標である「安全安心で働きやすい職場」づくりに向けても取り組みを強化したいと、加世田工場長は強調する。

「特に日本語に慣れていない外国人スタッフのため、ストレスなく働ける職場環境を整えていきたいと考えています。例えば、帳票類への記録で日本語を書き込む作業を少しでもなくしていくこと、システムの多言語対応を進めていくことなどです。そして、弊社では1年ほど前からウェブラーニングを取り入れており、こうした継続的な教育活動を通じてスタッフ全員が同じ目線の高さで同じ方向を向いて歩みを進められるよう努めています。今後もこうした活動をさらに推し進めていきたいと思います」


ローゼック 大平 遥士のコメント

帳票のレイアウトをガラッと変えてしまうと、現場の皆さんは混乱します。霧島湧水さまの DX 化プロジェクトが成功したのは、これまでエクセルで作成していた帳票のレイアウトをタブレットPC 画面でそっくり再現したことにあるのではないでしょうか。霧島湧水さまからは今回、たくさんのアイデアを頂き、おかげで製品がより魅力的になりました。なお、イージー帳票は外国人労働者向けの多言語機能も近々実装する予定です。

(ローゼック 大平 遥士)
月刊食品工場長 2024年5月号より転載