株式会社シェフコ様

ISO22000を運用する中でスピーディーなペーパーレス文書管理を実現
月刊食品工場長 2024年10月号より転載

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水素水などの清涼飲料水を製造する栃木県の㈱シェフコ鹿沼工場では、㈱ローゼックが開発したペーパーレス化システム「イージー帳票」を導入。2024年6月より本運用を開始した。ISO22000を運用する中でスピーディーなペーパーレス文書管理を実現した。

独自技術によるサプリメントや清涼飲料水のOEMを展開

黒焼きや漢方薬などを製造販売する松ノ木目印黒焼屋として1690年(元禄3年)に創業、高度な製造技術を引き継いできた現在のシェフコは青汁・錠剤・カプセル・ゼリーなどのサプリメント、また水素水などの清涼飲料水のOEMを展開している。創業から300年以上が経過した今も、人々の健康維持の役に立ちたいという想いを受け継ぎ、一貫して健康にまつわる食品の研究と製造技術の開発を重ねている。

原料の風味を損なわずに殺菌する技術や、栄養成分の吸収を高めるためナノレベルの微細な粉を生成する技術、添加物を使用せずに錠剤に固める技術など、歴史の積み重ねで完成した独自の技術が同社の大きな強みだ。

同社は栃木県鹿沼市に三つの工場を構えている。栃木工場では主に原料の殺菌粉砕など、上流工程の加工を行い、宇都宮工場ではその原料を素に加工、包装している。2017年に竣工した宇都宮工場には最新鋭の製造設備を完備。ユーザーが安心できる衛生環境を整備し、有機農産物加工(有機JAS)の認定を受けている。

07年に完成した鹿沼工場は、主に水素水を製造する清涼飲料水専門の工場で、高品質の水素水を製造するための独自技術を有している。

「鹿沼工場では10年に健康補助食品GMPとハラール認証、14年にISO22000を取得しました。販売会社を通じて、日本国内をはじめ、アジアを中心に11カ国へ輸出しています。直近では、5年6カ月間保存可能な飲用水のOEM製造を開始し、24年8月6日に鹿沼市と防災協定を締結しています」(鹿沼工場 常務取締役工場長 五十嵐純一氏、以下同)

同年3月には三重県津市あのつ台で豆腐やカステラを製造する「あのつFACTORY」の稼働を開始、輸出やEC販売強化を進めている。また年4月には新中期経営計画をスタートさせ、計画の一つにDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を据えている。

10年後も紙のやり取りを続けているのか

主に水素水を製造している鹿沼工場では、帳票を含め、高度でありながら比較的シンプルなルール、仕組みの下で食品安全システムを確立してきた。

「紙の帳票でも特に不便は感じていませんでした。現状維持はラクですし、むしろ新しい仕組みを導入することで、これまで作り上げてきた食品安全システムが崩れてしまう心配もありました。しかし、『では、10年後も紙のやり取りを続けているのか』というと、『それは違う』と思いました。時代の流れを考えると、デジタル化を進めるのが必然です。工場スタッフの努力と協力のおかげで、シンプルで質の高い食品安全システムを構築できたと自負しています。それならば、デジタル化もスムーズにできるのではないかと考えました」

五十嵐工場長は、帳票管理のデジタル化の検討を開始した。23年9月のことだった。

エクセルのレイアウトをそのまま取り込めるイージー帳票

「私がシステム選びで重視していたのは、キックオフミーティングでスタッフに説明する際、導入しやすさと導入後の具体的なイメージを感じ取ってもらえるだろうかということでした。最初の説明は極めて大切です。なぜなら、ここで難しいと感じると結果にまで影響を及ぼしてしまうからです」

五十嵐工場長は23年10月、ソフトウェアの会社が多数出展している展示会に出向き、5社ほどのブースを見て回った。そのひとつがイージー帳票を紹介していたローゼックだった。

「ローゼックさんの『エクセルのフォーマットをそのままタブレットで使える』という看板に吸い寄せられ、これだと思いました。予想されるスタッフの心配は、ほとんどすべて払拭できるだろうと思い、決断しました」

スタッフに説明すると、それでもやってみなければ分からないとしながらも、導入に理解を示してくれた。

エクセルのレイアウトをそのまま使えるイージー帳票

イージー帳票は工程管理や設備管理、在庫管理、健康チェックなどの記録帳票をクラウド上で一元的に管理し、さらにペーパーレス化できるITシステム。これまで記録項目ごとにさまざまな書式で用意されてきた紙の帳票を製造現場に持ち込むことなく、どのような帳票への記録も、タブレットPCやスマートフォンなど1台のモバイル端末で入力する作業に変えられる。タブレットPCの機種が限定されず、ユーザー側で幅広い選択肢が得られる。

多くの工場では、主にエクセルを使用して紙の帳票を作成しているが、イージー帳票の最大の特徴は、ローゼックが独自に開発した専用の帳票作成ソフト上で、これまで使用してきたエクセルのレイアウトを簡単に取り込み、再現が可能なことだ。ペーパーレス化のためにわざわざ一つ一つ帳票レイアウトをゼロから作り込む必要がなく、製造現場でもそれまでの帳票イメージを維持しながら記録を入力できる。

ネットワーク環境準備とスピーディーな導入・運用

23年度中にイージー帳票の導入が決定すると、次年度早々の24年4月から本格的に準備にとりかかった。まず、管理用PCからクラウドサーバーを通じて権限者がどこにいてもタブレットで入力や閲覧ができるようハード面の整備を開始、Wi-fiを含めたネットワーク環境を整備し、タブレットPC6台を導入した。このプロジェクトの推進に当たり、一部の費用は鹿沼市の「令和6年度 デジタル化推進事業補助」の補助金を受けた。

ソフト面ではワードの帳票をエクセルに作り変えるなどの作業を進め、できるものから順次イージー帳票に移行していった。帳票は改訂されることが多いため、現行版と改訂版が混在しないように、ローゼックのアドバイスでバージョンアップ機能を使用するなど、運用面でのルール作りも進めた。 五十嵐工場長は準備開始から2カ月後の6月14日を本運用の開始日に定め、スタッフ向けの講習会を7日と12日の2回開催し、スタッフの疑問点の解消に努めた。講習会から本運用の14日当日までは計画通り順調に進んだという。 本運用の開始当日までには45の帳票の移行が完了しており、一斉切り替えに成功した。さらに帳票の移行作業を短期間で進め、8月末までに90の帳票のデジタル化を達成している。

食品安全のための帳票管理がより確実に

イージー帳票の導入で得られた最も大きなメリットは、「食品安全の質を左右する帳票の最新版管理が正確で効率的になったこと」だと、五十嵐工場長は強調する。 紙の帳票は記録ルールや書き方(フォーマット)などが改訂された際に、現場で新旧の紙の帳票が混在したりする可能性があるため、正しく記録を残せないというリスクがある。

「文書管理と記録管理は食品安全のためにとても重要です。ましてISO22000の認証を受けた工場としても最新版管理は確実にできていなければなりません。イージー帳票の導入後に、じつはこれまで紙で改訂版を管理することがストレスだったと気づきました。以前は帳票の改訂後に現場にプリントされた改訂前の帳票が残っていないかなど細かくチェックする必要がありましたが、イージー帳票の導入後はバージョンアップ機能で最新版の管理が容易になりました」

イージー帳票では、帳票はそれぞれIDナンバーで管理されている。準備中の改訂版には星マークと「準備中」の文字を表示し、切り替え時に解禁すれば、ユーザーから見ると同じIDの帳票がバージョンアップしたように見えるという機能だ。そのため新旧が混在する心配もなく厳密に帳票を一元管理できる。

「工場のスタッフは実直にルールを守っていますが、紙の帳票は第三者から見て記録後の改ざんが行いやすく、人の手を介在すればするほどミスも生じやすくなります。そのため、ルール化するだけでなく、ミスを未然に防ぐための仕組みが必要でした。しかし、デジタル化したことで簡便化でき、心配も大きく軽減されました」

併せて帳票に対する製造スタッフの向き合い方も変わってきた。

「作業時間が短縮されただけでなく、入力に対するストレスも緩和されたことで、スタッフは記録する際、じっくり確認するようになり、より帳票の正確性が高まりました」

コスト削減・省力化などを実現

省コスト化や省力化のメリットも得られた。コピー用紙の消費量は導入前の15%減となり、今後さらに削減できると見込んでいる。また紙帳票のファイリングのためのファイルとキャビネットも不要になる。これにより保管期限が過ぎた記録の廃棄作業の労力も削減できる。

製造スタッフからも、「商品名や資材名などは予めマスタ登録で作り込めば、記録の際にプルダウンで選択でき、入力の手間がなくなった」「受入検査時の資材メーカーのロット番号、賞味期限などについてカメラで撮影するだけでよくなった」「検索機能を使えば、どこにいてもタブレットPC上で過去の記録を呼び出せるようになった」「記録を事務所や自宅で承認できるようになった」「記録のプリントアウトの手間がなくなった」など、業務時間の短縮につながったことを実感するさまざまな声が届いているという。

安全安心をすべての人に届けたい

五十嵐工場長は、イージー帳票のようなソフトを応用し、いずれは予兆保全などにもつなげていきたいと考えている。例えば、設備の圧力や温度などを連続的にモニターし異常があればタブレットPCに知らせが届く。また連続的な数値を記録して機械の傾向分析ができれば、論理的に部品交換の時期を決めることができる。この要望を受け、ローゼックでは今後、通信などの課題が解決できれば、予兆保全機能も検討していく考えだ。帳票のデジタル化はシェフコでの食品安全の質を向上させる第一歩となった。

「国によって宗教、文化、習慣が異なり、水だからといって、安心して飲用いただけるわけではないことを知りました。そのことを実感したときから、赤ちゃんからお年寄りまで、世界中の誰もがシェフコで製造したものならば、絶対に安心して飲めると認識していただける会社になるのが目標です」

 

ローゼック 小池 昭一郎のコメント

シェフコさまがイージー帳票をスピーディーに導入できたのは、もともとの帳票管理がしっかりなされていたこともありますが、併せて「シンプルな書式」の帳票から始められたことも要因です。つい、はじめに複雑なものがシステムで適用できるかの検証を先行してしまいがちですが、これらのものは逆に無理にシステム化をすると、かえって手間が増えてしまうなどのことが発生しがちです。「紙をタブレットに置き換えるだけ」という観点で進行いただくことで、現場でも大きなストレスを感じずに導入や運用ができるようになります。

(ローゼック 小池 昭一郎)
月刊食品工場長 2024年10月号より転載