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洋生菓子を製造・販売する㈱ドンレミーは、㈱ローゼックの食品製造業向け生産販売統合システム「CraftLine(以下、クラフトライン)」を群馬県と岡山県の3工場に導入し、旧システムから新システムにスムーズに移行。複数のデジタルシステムとも連携し、受注から生産計画、ピッキング、請求業務までの情報の一元化に向けたスタートラインを切った。
手作り感とフルーツを使用した季節感、彩り豊かな生菓子が主力
ドンレミーのルーツは東京都足立区に創業したあめ製造業。1984年(昭和59年)11月に「株式会社 ドンレミー」として会社を設立後、洋生菓子の製造・販売を開始し、チルドデザートや冷凍デザートを中心にコンビニやスーパーマーケット、ドラッグストア向けに販売してきた。
2017年以降は海外展開にも乗り出し、冷凍デザートを中心に米国や東南アジアなどに出荷している。
主力商品は「しあわせバナナクレープ」「しあわせスフレロール」、カップケーキの「プリンアラモード」などクレープやロールケーキ、タルト、チーズケーキ、カップケーキ。手作り感や季節感にこだわり、フルーツで彩りを添えた商品が多いのが特徴だ。
生産拠点は、基幹工場の榛名工場(群馬県)、西日本向け生産拠点の岡山工場(岡山県)、24年5月竣工の高崎工場(群馬県)の三工場である。榛名工場と岡山工場では19年にFSSC22000の認証を取得。高崎工場には海外輸出や冷凍ケーキの販路拡大を視野に入れ、冷凍設備やコンテナ出荷用意バースが整備されており、24年度内でのFSSC22000の認証取得を目指している。
受注から生産、ピッキング工程まで課題が山積み
これまで、全社の受注や生産の管理業務を担ってきた榛名工場では、長年使用していた受発注システムが老朽化。企業間における受発注などの商取引データを、通信回線を通じてやり取りするEDI(Electronic Data Interchange:電子データ交換)システムのバージョンアップも必要になっていた。もはやシステム改修も難しく、エラー発生時にはシステム会社に頼るしかなかった。
また受注請書や納品書、請求書などを含め、納品先ごとに異なる要求(データ形式、記入項目、アウトプットなど)に対しても柔軟に対応できず、その結果、手作業による書類作成が発生してしまっていた。受注情報は生産計画に大きな影響を与えるため、日々の製造自体にも作用を及ぼす懸念があった。
さらに、生産計画はエクセルで作成していたため、担当者によってマクロ機能が複雑に組み込まれて属人化に陥り、加えて製品ピッキングの現場では受発注システムから出力した紙を見ながらの作業で、外国人労働者が多いことも重なり出荷ミスを発生させていた。
このような状況の中で、22年4月、日曜日に受発注システムのエラーが発生。システム会社が休日だったため復旧を依頼できず、納品先に迷惑をかける事態となったという。
「これを機に、新システムの検討を始めました。新たに高崎工場が整備されることも見据え、生産管理も含めて手を入れたいという考えもありました。そこで、システム全体をワンストップでできる業者がないか探し始めました」(高崎工場工場長遠藤雅樹氏、以下同)
小回りが利き日配品に対応できるクラフトラインに決定
同月内には早速、遠藤工場長が新システムへのリプレースに向けて動き出した。業者の選定の条件は『365日対応できること』『日配品に対応できること』だ。数社のシステムを検討したなかで、小回りが利きそうで、日配品での実績があったクラフトラインに注目した。
「ローゼックさんが現場が困っていることを理解しようと真剣に話を聞いて具体案を示してくれたことや、システムの導入コストが安かったことも決断の後押しになりました」
ローゼックのクラフトラインは、生産管理や販売管理、在庫管理、受発注管理、トレーサビリティシステム、原価計算など、食品製造に必要な各種機能を備えたパッケージシステム。会計、人事給与を除いた全業務を横断的・統合的に管理できるが、事業規模や業態、工場の 管理レベルに合わせて段階的に機能を拡張できるように設計されているため、比較的IT化が遅れている中小規模の食品工場でも広く導入が進んでいる。
食品製造の核であるレシピや在庫、オーダー、コスト(製品売価、仕入単価、工賃、水道光熱費、設備費など)が紐づいているため、同じ情報を何度も入力する必要がなくなる。その結果、日常業務でシステムを使っていると、派生的に原価計算やトレーサビリティが実現する。
さらに、クラフトラインには導入企業が広がるたびに改善・進化する仕組みがある。ユーザー各社の要求に応じて新たに開発されたプログラムが標準機能として追加され、ソフトがバージョンアップしていく。保守契約を結んでいるユーザーには無償でこうした新機能が提供される。
一斉切り替えに向けスピード感を持って進行
同年10月、遠藤工場長は各部門から5人ほどのメンバーを集め、クラフトライン導入のプロジェクトチームを結成した。チームはまず、生産業務の分析を行い、計画、製造、在庫の特性を整理した。23年夏からはマスターデータの整備を始め、同年11月に完了。一方、旧システムは契約終了を24年9月末に定め、同月初めに一斉切り替えすることを目標に準備を進めた。予定通りの同年10月、旧システムを停止し、クラフトラインへの切り替えが完了した。

このプロジェクトの特徴のひとつは、旧システムとクラフトラインを並行運用することなく一斉切り替えしたことである。ローゼックのパートナー企業である富士テクノロジー㈱の支援を受けて実現したという。
また複数のシステムやソフトをクラフトラインと連携させた統合システムであることも特徴だ。まず、23年11月には、㈱イシダのデジタルピッキングシステム「さいまるカート」を導入し、クラフトラインの受注・出荷情報と連携させている。その後、一斉切り替えと同時にEDIシステムを最新バージョンに切り替え、クラウド型電子請求書発行システムと連携させ、得意先ごとに異なるフォーマットでの請求データ出力を実現した。
目標期限に向けて計画的に進めたことで、複数のシステムを連携させた統合システムが実質18カ月間(23年4月~24年10月)という、比較的短期間で完成した。
「弊社の行動指針のひとつにスピード感を持って取り組むという指針があり、それはアイデンティティーになっています。ローゼックさんにもスピード感を持って対応いただき、そのおかげで短期間での構築が実現できたと思います」(同)
情報の一元化で属人化解消、生産計画も全体最適化
25年1月現在はクラフトラインによる統合システムの下で受注業務や請求業務が行われている。受注時の得意先個別の帳票出力は、従来の受発注システム上で得意先ごとに個別に手が加えられブラックボックス化していたが、それらを解析した上でクラフトライン上での一括処理を可能にさせた。また請求の締めの処理もエクセルにデータを落として加工していたため属人化していたが、ローゼックによる協力の下で情報が整理され、受注と請求に関わる帳票は、クラフトラインをベースに、得意先ごとに存在する固有の条件にも適応できるようになっている。

「これまで受注業務にあたっては、例えば受注の予測の数字を割り出すために紙やデータに散在している情報を集めて判断していたため、その日の担当者によってブレが生じていました。必要な情報がクラフトライン上で一覧できるようになったことで属人化の解消、業務品質の安定化、生産性の向上などが見込めます」(同)
そして、整理された受注情報は生産計画にも効果的に生かされ、日々の製造活動にも寄与している。生産管理システムについては、生産計画に必要な➊品目別の新規販売情報➋特売情報❸在庫情報➍受注情報―が一元的に扱えるようになり、24年11月にクラフトライン上で仮稼働を開始した。
「これまで生産計画はエクセルで作成し、必要に応じて変更してきました。しかし、一部を修正するだけの部分最適ではなく、全体最適にしていかなければなりません」(同)
コスト削減・省力化などを実現
省コスト化や省力化のメリットも得られた。コピー用紙の消費量は導入前の15%減となり、今後さらに削減できると見込んでいる。また紙帳票のファイリングのためのファイルとキャビネットも不要になる。これにより保管期限が過ぎた記録の廃棄作業の労力も削減できる。
製造スタッフからも、「商品名や資材名などは予めマスタ登録で作り込めば、記録の際にプルダウンで選択でき、入力の手間がなくなった」「受入検査時の資材メーカーのロット番号、賞味期限などについてカメラで撮影するだけでよくなった」「検索機能を使えば、どこにいてもタブレットPC上で過去の記録を呼び出せるようになった」「記録を事務所や自宅で承認できるようになった」「記録のプリントアウトの手間がなくなった」など、業務時間の短縮につながったことを実感するさまざまな声が届いているという。
経営判断につながる原価計算も視野に
今回のクラフトライン導入により、海外輸出を含め、さらなる事業成長への足がかりにつながり、加えて市場の変化に対して商品バリエーションのニーズが増えてきたタイミングで受注から生産、出荷までが一元化され、経営上のメリットにもつながる結果となったといえる。同社では、将来的には原価計算をもとに、納品先ごとに採算がとれる原価計画を立てることまで視野に入れている。
「今後、市場変化に柔軟に対応できる基盤整備を確立できます。今、そのスタートラインに立てたと思います。また、原価計算は経営判断につながります。私たち工場は、そのレベルまで考えていく必要があると思っています」(同)
そして、遠藤工場長が最終的に目指しているのは、さらにその先にある。
「私が最終的に目指しているのはドンレミーが働く人に選ばれる会社になりたいということです。会社としての考え方や目標を、従業員たちが仲間として共有して自慢できるようになりたい。今回のシステム導入プロジェクトもその一つです」(同)
ローゼック 内木場 隆宜のコメント
在庫管理や製造計画、製造日報、原価計算などをエクセルで管理している会社さまは多いのですが、業務属人化の原因となっています。コア業務からエクセルを排除することが業務改革の第一歩です。自社の仕事の流れをフロー図で可視化し、業務の結節点でエクセルを使用していないか、確認してみることをお勧めします。