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レギュラーコーヒーの製造・販売などを展開する三本珈琲㈱では今年4月、㈱ローゼックの食品製造業向け生産販売統合システム「CraftLine(クラフトライン)」を本格稼働させた。これにより、製造フローの見える化を実現し、従来の課題だった商品の遅延・欠品も減らすことができた。顧客が求める高品質なコーヒーを3工場で製造
三本珈琲は1957年に山本兵太郎氏が横浜市にコーヒーの卸問屋㈲三本コーヒー店を創業したのがルーツ。一流ホテルやレストラン、カフェのためにカスタムしたブレンドコーヒーを作ることが強みで、ロースターとしての専門性を生かし、それぞれの顧客が求めるオリジナルの味や香りを探求してきた。業務用商品で成長を遂げ、70年ごろからは家庭用商品も展開、個人レベルでのファンも開拓し続けている。
「より高品質の生豆を安く仕入れるため、その多くを自社で直輸入することに特にこだわっています。仕入れ後は自社の定温倉庫で保管して温度管理を徹底、工場には枝や葉などの異物や悪い豆を取り除き精選するクリーニング室も完備しています。独自の製法と厳しい基準でコクや個性を出しながらも、雑味のないコーヒーになるよう注力しています」(常務取締役 山本将人氏)
現在、生産拠点は鎌倉総合工場、仙台総合工場、北海道総合工場の3工場で、全てで有機JAS認証を取得、FSSC22000の認証は鎌倉と仙台の2工場で取得している。このうち、旧・横浜総合工場を移転して2018年4月にリニューアル開設した鎌倉総合工場は、最新鋭の設備を完備。高密度の圧縮空気でゆっくりといり豆を運ぶことで破損を防ぐ「高密度輸送」や、窒素を充填できるいり豆サイロのほか、焙煎機はアメリカ製・ドイツ製・日本製の多種多様な機械を取り入れ、顧客の細かいニーズに対応している。
もう一つ注目なのが、オリジナルブレンドを作る際に顧客の細かな要望を反映できるよう「味覚センサー」を用いて数値化・マッピングし、マーケティングや営業に生かしていることだ。
「コーヒーの『おいしい』をどう定義し評価するのか、従来はとても難しいことでした。それを科学的根拠に基づいて示せるため、弊社ではこの技術を積極的に利用しています」(食品安全・開発研究本部部長 兼 製造部門統括本部長 執行役員 山口章氏)
商品の遅延・欠品に悩む
同社の生産管理システムは、複数のオフィス・コンピューター(オフコン)などを接ぎ合わせて構築され、それぞれが連携していなかったため、何度も手入力が必要など、管理業務に無駄が多い状態だった。システムをリプレースする直接のきっかけはこのことではあったが、同社ではもう一つ大きな課題を抱えていた。それは、商品の遅延・欠品が起きやすいことだったという。
「業務用商品は当初、受注生産が中心で、各支店から発注を受けた品目ごとに2日後の生産計画を立て、それが玉突きで続いていく流れになっていて、常にリードタイムに余裕がありませんでした。生産が遅れていても状況をリアルタイムに把握できないため対処できず、結果、商品の遅延や欠品になるケースがありました。お客さまにご迷惑を掛けないためには、全体の業務フローが見える生産管理システムに刷新し、生産体制そのものも全社的に見直す必要がありました」(山本常務)
新システムのリプレース計画は16年5月に始まった。山本常務をはじめ4人のプロジェクトチームが組まれ、約20社の提案から選定したのが、ローゼックのクラフトラインだった。「ローゼックさんは弊社の業務フローや課題を確実に理解しようという姿勢がとても強く、加えてパッケージシステムを持っていることが魅力でした。クラフトラインのような食品業界向けにパッケージ化されたシステムには、ターゲットを定め、そこで培った技術が蓄積され、最大の効果を発揮できるよう設計されているという信頼感がありました。また、自社専用にカスタマイズして構築するよりも優れたシステムが、比較的安価で得られます」(同)
食品製造業に必要な機能を備えたパッケージシステム
クラフトラインは、生産管理や販売管理、在庫管理、受発注管理、トレーサビリティシステム、原価計算など、食品製造業に必要な各種機能を備えたパッケージシステムだ。会計、人事給与を除いた全業務を横断的・統合的に管理できるシステムでありながら、事業規模や業態、工場の管理レベルに合わせて段階的に機能を拡張できるよう設計されているため、比較的IT化が遅れている中小規模の食品工場でも広く導入が進んでいる。クラウドタイプなので各事業所でサーバーコンピューターを設置することなく、アクセス権限のある人ならタブレットPCやスマホなどで、ウェブ・ブラウザを通じてどこにいても情報共有や入力ができる。
特に注目すべき特徴は、導入企業が広がるたびに機能が進化する仕組み。導入企業の要求に応じて独自に開発された機能が次々に追加されていくため、ユーザー側でカスタマイズ作業を行うことなくソフトがバージョンアップする。保守契約を結んでいるユーザーには無償でこうした新機能が提供される。
自分の言葉で目的やメリットを語れるか
新システムの構築に当たっては、ローゼックを交えて2週間に1回のペースでミーティングを重ね、現状課題の整理や要件定義などを進めていった。工場側からの要望も集める中で、当初は新システムに落とし込む改善項目があまりにも多く収拾がつかなくなることもあった。そこでプロジェクトを仕切り直し、「何のためにシステムをリプレースするのか」という原点に立ち返り、目的がブレないよう軌道修正した。
「プロジェクトメンバー自身が自分の言葉でシステムリプレースの目的やメリットを語れるかどうかを常に確認するようにしていました。どんなことでもそうですが、組織を動かす上で大切なのは、一人一人が目的を理解・共有することだと思います」(同)
3工場を一つのシステム上で統合管理
図1と図2は新システム導入前後の生産管理システムフローだ。以前は受注や出荷の登録・出力、在庫数登録と生産計画に基づく所要量計算などはAccessで、作業指示書や売上伝票、請求書、商品受払表の出力などはオフコンで行い、それぞれが連動していないため別々に手入力する必要があった。従って管理業務の無駄が多く、リードタイムも長くなり、商品の遅延・欠品の発生につながる原因にもなっていた。
新たに導入したクラフトラインでは、鎌倉・仙台・北海道の3工場を一つのシステム上で統合管理。店舗からの受注、生産計画の作成、生豆と資材の発注、工程別の製造指示、出荷指示が連携できるようになり、別々の手入力がなくなった。在庫データはロットごとに管理している。今年4月に稼働を開始したERP(統合基幹業務システム)とも連携しており、日次で売り上げ、仕入れ、製造実績、実際原価の各データ、月次で在庫棚卸データを出力、在庫データはクラフトライン側でロット別データを品目別データに合算し、ERPに取り込んでいる。一連の情報連携を生かし、トレーサビリティシステム機能も備え、FSSC22000にも対応させているという。
「ある商品で問題が起きても、どの生豆のロットか、簡単な操作で追跡できます。生豆の入荷から製品の出荷まで、全てクラフトラインで回せる仕組みにすることで、新しい業務の在り方を効果的に現場に落とし込めるようにしました」(山口統括本部長)
工場相互での製造移管により欠品を減らす
新システムの構築は一時中断期間もあったが、18年4月に鎌倉総合工場で一部稼働を開始した。その時点でまず実感できたメリットは、製造フローの見える化だったという。
「それまで製造工程の一連の流れや状況は直接の担当者以外は見えにくい、いわばブラックボックスになっていましたが、それが大きく改善され、今では生産計画の組み方から出荷状況まで数値で追うことができ、『なぜそのようになっているか』をロジックで分析できるようになりました」(山本常務)
そして今年4月からは仙台と北海道の両工場が加わり、ERPと連動して実質的にクラフトラインだけでの生産管理システムの運用を開始。最大の課題であった欠品対策についても、確かな手応えが得られたという。
「欠品とそれに伴うクレームは相当減ったという実感があります。現在は3工場の在庫状況がリアルタイムで見える化され、生産の平準化が可能になったので、鎌倉総合工場が忙しいときは仙台総合工場でサポートできるようになりました。同じ生産管理システムの中で3工場が製造予定や在庫状況などの情報を共有できるようになったことで、このような製造移管が容易にできるようになったのです」(山口統括本部長)
3工場が互いの状況を把握することで効果的な連携を図れる。工場間を横串の状態にして情報共有ができるクラフトラインならではのメリットが生かされている。
本社での一元管理へ
加えて、同社では将来的に商品在庫や生豆、資材の仕入れなどが本社で一元管理できるようになることを期待している。これまでは生豆や包装資材などの仕入れは各工場で担当スタッフが業務をこなしており、それだけ製造コストのアップにもつながっていた。
「本社で3工場の状況が見えるようになれば、こうした業務も本社で一括して行えるようになります。業務そのものの効率化に加え、購入単価も抑えられます。各工場の生産計画も、一元管理できればより効率よく組めます。その結果、工場が製造に集中でき、品質や安全性のさらなる向上につなげられます。私たちの課題は『良いものを、同じ品質のものを、安く作り続けること』。そのためには管理業務を効率化し、余計な工数を減らして集約化することが不可欠です。クラフトラインは、まさにそのためのインフラとして活用できるシステムだと思います」(同)
3工場を一枚岩に
新システムはこれからの組織づくりでも重要な役割を果たすと、山本常務は強調する。従来は工場ごとに経営判断を委ねて責任を持たせており、それ自体に意義はあったのだが、会社全体のガバナンス(統治)のためには、逆にネックとなる部分もあった。今後は3工場を一枚岩の組織に組み込む。
「弊社にとって永遠の目標は、会社全体でお客さまのあらゆる嗜好に応えて高品質のコーヒーを届け続けることであり、それは常にチャレンジです。そのためには小ロット多品種の生産体制にこだわる必要がありますが、継続に向けては製造での譲れない非効率なこと以外はできる限り効率化・集約化を進めなければなりません。しかしながら、工場ごとの縦割り体制ではどうしても限界がありました。これからは3工場で補完し合い、同一の基準・仕入れ・管理体制の下で製造できることが重要になると考えています。新システムはそれを可能にするツールとして、大きなステップアップをもたらしてくれたと思っています」(山本常務)
ローゼック 早川雅人のコメント
方針や目的を明確にしブレずに現場に落とし込む
業務管理システムの構築は、経営方針や導入目的を明確にし、ブレずに現場に落とし込むことが重要です。三本珈琲さまの場合、山本常務のリーダーシップと山口統括本部長の要件整理により、これが着実に実践されたと思います。現場の要望には業務の無駄を温存してしまうものもありますし、全てをシステム化しようとすると複雑化・肥大化しうまく運用できません。もともとの方針や目的に沿っているのか、要件の取捨選択と優先順位付けが重要です。経営者層には「無駄は排除する」というブレない覚悟が求められます。