井村屋グループ様

クラフトライン導入による管理業務効率化に向けアイス部門が先陣を切る
月刊食品工場長 2024年6月号より転載

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小豆を原料とした商品を幅広く展開する井村屋グループでは、㈱ローゼックの食品製造業向け生産販売統合システム「CraftLine(以下、クラフトライン)」を三重県の本社工場に導入し、2018年より新システムへの移行をスタートさせた。これによりアイス部門では生産計画からMRP(資材所要量計画)、実績の登録までを軸にした管理業務効率化に向け、大きな一歩を踏み出した。

小豆を原料とした多彩な商品を生産

井村屋グループは原点であるようかんなどの菓子をはじめ、ゆであずきや氷みつなどの食品、和風アイスを中心とした冷菓、肉まん・あんまんが主力の点心・デリ、豆腐などの日配品ほか、1896年の創業以来、小豆を使用した商品を幅広く展開している。現在、主力商品は冷菓「あずきバー」で、2023年度には発売から50周年を迎え、あずきバーシリーズのリニューアルや数量限定商品の販売など、和の素材である小豆の魅力を改めて訴求した。新発売の冷凍和菓子「井村屋謹製たい焼き」や「やわもちアイス」シリーズの新アイテムなど、新商品も続々と発売している。

同年3月には三重県津市あのつ台で豆腐やカステラを製造する「あのつFACTORY」の稼働を開始、輸出やEC販売強化を進めている。また年4月には新中期経営計画をスタートさせ、計画の一つにDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を据えている。

業務の属人化とマイナス在庫を許す慣習が課題に

かつて「汎用(はんよう)機」と呼ばれる業務用大型コンピューターが主流だったころ、井村屋でも管理業務システムを自社開発し運用を行っていた。やがてウィンドウズなどのオープン系ソフトの時代になり、外注でオープン系システム(以下、旧システム)に移行すると、生産に関わる業務システムの標準化を試みたが、一部の機能で商品カテゴリーの枠を超えることができなかった。

「標準化が進まない中、二つの課題が根付いていました。業務の属人化と、月末に集中する在庫管理の業務です」と振り返るのは、同社執行役員常務で新システム導入を担当したデジタル戦略室長の岡田孝平氏。

業務の属人化の問題は、各カテゴリー部門でそれぞれ独自の業務スタイルを確立してきたことが背景にある。旧システム以降、エクセルが普及すると、各カテゴリー担当者がエクセルを駆使して業務を行うようになっていった。エクセルは便利な半面、担当者が作り込むほどほかの人にはその構造が分かりにくくなり、結果として情報が共有されにくくなる。

「そこで、エクセルの使用による属人化を解消し、全部門・全工場の業務を同じフォーマットにするために標準化されたパッケージシステムを導入したいと考えました」(デジタル戦略室 中川卓也氏)

月末に在庫管理の業務が集中するのは、主に原料コードの問題に起因する。原料の受発注などに使用する原料コードは荷姿や産地の違いにより個別に設けられたため、一つの原料に対して複数の原料コードが存在するようになった。例えば、荷姿がタンクローリーと袋では原料コードが異なるという具合だ。システム上では原料の必要量の計算も使用量の引き落としもレシピが基準になる。レシピを作成する際、基準となる単位が袋となる場合、タンクローリーで仕入れた原料は在庫の引き落としがされない。だが、倉庫にはタンクローリーの原料コードで仕入れた原料もあるため、システムと実在庫が合わなくなってしまう。そのため暫定的にシステム上で工場にマイナスで払い出し、月末に調整することになる。これが業務の集中につながっていた。

「まずは月末に在庫管理の業務が集中せざるを得ない状況を解決し、リアルタイム在庫の見える化を実現したいと考えていました」(岡田室長)

新機能追加が無償のクラフトラインを選択

デジタル戦略室では、多様な商品部門を抱える井村屋グループの業務に合った新システムの導入を検討してきた。しかし、どれもカスタマイズしようとするとコストが膨らみ、標準化から離れてしまう。検討を続ける中、同社は18年にローゼックの管理業務のパッケージシステム「クラフトライン」と出合う。「月刊食品工場長」でクラフトラインの記事を見た当時のSCM担当役員が、ある展示会に出展していたローゼックを訪ねたことがきっかけだ。

「他の候補もありましたが、ローゼックの早川雅人社長の『カスタマイズという概念は存在しない』というひと言が選択の決め手になりました。追加機能はシステムの標準機能として取り込み、保守費用に収めるという考え方です。それならば、高額な開発費用やカスタマイズ費用を負担せずにトライ&エラーを繰り返し、目指すシステムができると思いました」(同)

ローゼックのクラフトラインは、生産管理や販売管理、在庫管理、受発注管理、トレーサビリティシステム、原価計算など、食品製造に必要な各種機能を備えたパッケージシステム。会計、人事給与を除いた全業務を横断的・統合的に管理できるが、事業規模や業態、工場の管理レベルに合わせて段階的に機能を拡張できるように設計されているため、比較的IT化が遅れている中小規模の食品工場でも広く導入が進んでいる。 食品製造の基本情報となるレシピや金額、オーダーなどをマスターデータ、つまり1本の「横串」の状態にして各業務が行えるため、こうした基本情報を何度も入力する必要がなくなる。またこの構造により、リアルタイム原価計算(直接費)やトレーサビリティも実現する。

 さらに、クラフトラインには導入企業が広がるたびに改善・進化する仕組みがある。ユーザー各社の要求に応じて独自に開発された機能が追加され、ソフトがバージョンアップしていく。保守契約を結んでいるユーザーには無償でこうした新機能が提供される。

旧システムと並行稼働しながら管理業務を移行

クラフトラインの採用を決定した同社は18年夏、運用に向けた具体的な検討を開始、19年第1四半期までにハードとソフトの導入を完了した。その後、旧システムを並行稼働しながら管理業務の移行作業を進めた。

まず旧システムで行っていた業務範囲である「原料の発注・入荷、工場内の在庫移動、製品の出来高の登録、物流システムとの連携」をクラフトラインに移行。次に、それまでエクセルと紙で行っていた原料の仕入先への発注と入荷の管理をクラフトラインに載せ、それに伴う仕入れ業務を買掛金管理につなげる作業などを進めた。こうして、21年5月には旧システムでの業務範囲について移行作業が完了した。

現場での混乱と繰り返しの説明

移行完了後、思わぬ事態が露見されることになった。

「システム導入自体はおおむね順調でしたが、業務移行に伴い運用面での混乱が起きました」(同)

クラフトラインでは在庫がマイナスになると警告メッセージが表示され、入力できなくなる。これは、在庫管理システムとしては正常な機能だ。旧システムでは一時的なマイナス在庫を許可していたため、システム上で入庫と出庫の処理の逆転が発生しマイナス在庫となった場合でも出庫処理ができる仕様となっていた。クラフトラインではマイナス在庫になった場合、出庫処理ができなくなるため現場の混乱を招いていた。

「そこで、問い合わせがあるたびに現場を訪れ、マイナス在庫の発生原因を説明し、クラフトラインに合わせた運用を定着させていきました。その結果、入庫と出庫の逆転処理はなくなり、現物に合った運用ができるようになりました」(中川氏)

②帳票用紙を準備する時間の短縮これまで、品質管理課では1アイテム当たり毎日1〜2時間かけて帳票用紙の準備を行っていたが、30分以内に短縮された。

全社の業務効率化を目指し本格的な取り組みを開始

21年5月の移行完了後、運用に慣れてきた同年9月ごろから、全社の業務効率化を目指し本格的な取り組みを始めた。

「生産計画を基にMRPを回して原料発注までの自動化をしようというものです。これは弊社津市内の工場で初めての試みでした。まず初めに、アイス部門の生産計画から始めることにしました」(岡田室長)

クラフトラインの導入を機に、エクセルで作成していた生産計画はクラフトライン上で作成し、工場でそのまま出力するようになっていた。従来は担当者が作成した1週間の生産計画数を基に工場が自らの裁量で日々の生産計画へ落とし込んでいたため、日々の計画が把握できていなかった。今回の取り組みを通じて、現在では両者が事前にコミュニケーションを取って情報を共有し、日々の生産計画が作成されている。

「クラフトラインで作成した日々の生産計画と現物にずれがあると、その日に必要な原料の量にもずれが生じることになります。生産計画がMRPやその先の全ての業務につながることを説明し理解してもらうことで、関係者の意識が変わってきました」(同)

目標に向かい、アイス部門の各担当者が取り組みやすいよう、クラフトラインの標準機能に自社の運用に合った新しい機能を加える作業も同時進行していった。同じ日に同じ製品を2ラインで生産する場合の処理機能や、部門単位でMRPを回す仕組み、MRPに歩留まり差異を反映して調整する仕組みなどを追加した。また生産計画は担当者が使い慣れたエクセルに近いインターフェースとした。(図1)

「アイス部門では、各部署と工場の協力で井村屋独自の機能を追加しました。これにより生産計画を基にMRP、実績の登録(出来高・使用した原料の引き落とし)までの業務ができるシステムが整いました。また将来的にはMRPを原材料発注につなげていきたいと考えています」(同)

コード統一化で在庫見える化へ

重要な課題の一つだった業務の属人化については、クラフトライン導入を機に解消し始めた。熟練の担当者と一緒に補佐役がクラフトラインを運用するケースも見られ、これまで休むことなく1人で抱えていた業務を共有しバックアップする体制も整いつつある。 そして今年4月からは原料コードを統一する作業にも取りかかった。もともと原料コードが複数必要だったのは、旧システムに単位が一つしかなかったことが原因と考えられた。一方、クラフトラインでは単位を複数設定できるため、荷姿や産地が違っても一つのコードでの運用が可能。旧システムからクラフトラインへの移行時には暫定的に複数コードのままで運用していたが、統一すれば、システムと実在庫が一致し、在庫の見える化やその先の業務効率化にもつなげられる。(図2)

「昨年、関係各部署で、原料コードを統一しなければ次に進めないと共通認識を持ちました。今は作業で大変だと思いますが、コードを統一することで在庫の見える化を実現し、MRPから発注までの自動化が達成できるようになると考えています」(同)

取引先からの信頼を得るために

「アイス部門では全面運用のめどが立ちました。この部門で軌道に乗れば、全商品部門・全工場に展開していきます。今後もシステムのブラッシュアップを進めて業務の精度を上げることで、原材料在庫や工場仕掛在庫までのリアルタイムでの見える化を達成したいと考えています」(岡田室長)

クラフトラインで蓄積したデータは、BIツール(データ可視化ツール)を活用すれば、ユーザー自身の手でリポートを作成でき、将来的には工場の実績データを基にした多様な角度での分析が可能になる。また調達部門が工場在庫を把握して原材料の発注を事前に行うことで、業務の効率化も図れる。

「リアルタイムでの在庫の見える化やBIツールの活用が実現すれば、欠品防止や資材調達の効率化が図れ、商品へのさらなる信頼性向上も期待できます。最終的には、井村屋グループのパーパスである『おいしい!の笑顔をつくる』ことが目標です」(同)

昨年50周年の節目を迎えた「あずきバー」。次の50年も自社製品が愛され続けられるよう、同社の挑戦は続く


ローゼック 大津 元希のコメント

業務改革のためには、これまでの仕事のやり方、考え方を客観的に見つめ直し、変えるべきことは変える必要があります。誰しも慣れ親しんだ仕事のやり方を変えるのはおっくうですから、反発の声は必ず上がります。しかし、「会社を良くするためにシステムを入れ替える」という目的からぶれることなく、根気良く議論し続けることが重要で、井村屋さまには、そのようにして皆が同じ方向を向いて新システムの運用につなげておられました。各スタッフの皆さんが、やらされている感ではなく、強い目的意識を持って遂行されたことが大きいと感じます。

(ローゼック 大津 元希)
月刊食品工場長 2024年6月号より転載